デートその4 | ナノ
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(強引とも思える展開を繰り返しようやく終わりが見えてきました…)



「食ってみてくれ。今度、店で出そうと思ってるんだ」

言いながらマスターは白い皿をテーブルの上に置いた。
そこには、木の実や果物がふんだんに使われているケーキが載っている。おまけは、これでもかと絞られたクリーム。

「わ……!」

思わず、といったような風に感嘆の声が上がる。
甘い物が好きではないのでアルムは分からなかったが、ルカにとっては宝の山にも等しいものなのだろう。
目を輝かせて、様々な角度からケーキを眺めていた。
あまりに長い時間眺めているものだから、マスターから「早く」と急かされてしまうくらいに。

「では、いただきます」 

きちんと手を合わせて言う間も、視線はケーキに釘づけ。
いそいそとフォークで切り分けて口に入れると、目を見開いた後、ふにゃっと顔を綻ばせた。
そして口の中のケーキを飲み込んでから。

「美味しいです!これだけの果物や木の実を使っているのに素材同士が喧嘩をしていない。クリームもサッパリしていて、見事にそれぞれを引き立てている」

珍しく興奮した様子で紡ぎ出されるルカの言葉を、マスターは頷きながら聞いていた。

「それにスポンジ。これがいちばん美味しいです。噛まなくてもとろけていくのが、とても心地いい」

この一言を聞くと、アルムもルカの方に身を乗り出して声を張り上げる。

「本当!?」
「やったなアル坊!苦労した甲斐あったじゃねえか」

アルムは大きく頷き、目を輝かせてマスターとハイタッチをして見せた。

「僕が採ってきたのが、このスポンジに使ってる小麦粉!ケーキにぴったりな品種なんだって」
「店の下見しに来たアルムさんに主人が無理言ってお願いしたのよ。探すのも大変なのに昼間は店をやるから、作業は夜にしてくれだなんて」
「なるほど、それでアルムくんは夜な夜な宿を抜け出していたんですねえ」

思い出したらしく眉を落として告げたルカを夫人は気遣い、全く何てことさせるんでしょう、と呆れたように自分の夫を見やる。

「ごめんなさいね。心配したでしょう?」
「ええ。それはもう」
「ほら見なさい。あなたが店も小麦もって欲張るから」

咎める言葉と視線を受けてか、ばつが悪そうにマスターはルカに話し掛けた。

「悪かった!麦刈り得意そうな顔してたし、金が入用だって言うもんだからちょっくら借りちまったんだ。ケーキの出来に免じて許してやってくれねえか。な?」
「ルカ、頼むよ」
「…そうですねぇ」

ルカは口元に手を当てて、暫く考え込むような仕草をして見せた。
それから悪戯を思いついた子供のように笑って。

「他のケーキもいくつか頂戴できれば、私のここ数日の心労とつり合いますね」
「よし任せろ!嫌って程食わせてやるからな!おい、手伝ってくれ」
「はいはい」

厨房に向かって行く夫婦の背中を見送って、また二人きり。
先程夫人に見せた悲しそうな顔はどこへやら、ルカはまたケーキに向き直り、幸せそうに頬張っている。
それを見たアルムは安堵の表情を浮かべて紅茶を啜った。



物を食べる話を書くのが好きだと最近気が付きました
次で最後です。多分

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