を投げるアルムくん | ナノ
牽制球
これと話が繋がっています。というのを書き忘れてました。気付くの遅すぎた


妹が解放軍の騎士によく構ってもらっている。これは、兄として礼の一つは言わねばなるまい。リュートはそう思った。
しかし、人付き合いが苦手な彼にとってあまり話したことのない人間に声を掛けるのにはかなりの度胸が必要だった。

幸い、その騎士はアルムと親しい事を知っていたので、アルムに仲介を頼もうとも思ったが見当たらない。
仕方なく、少し離れた背後からジッと話し掛ける機会を窺い、一人になった所で。

「おい」

話した事もないのに名前を呼ぶのはどうなのか。それならばどう呼べばいいのかと散々迷った挙げ句、年上に対してなんだか偉そうな呼び方になってしまった。

しかし、彼は気にせずに「はい」と返事をしてリュートの方に振り返る。

「ああ、デューテさんの…」
「兄でアルムの友人のリュートだ」
「これはご丁寧に。私はルカといいます」

友人という言葉を妙に強調してしまったが、出だしは上手く行ったと自分を褒めた。
ルカと名乗った騎士は軽く会釈をして「以後お見知りおきを」とリュートに柔らかな笑みを向ける。

「……こうして話すのは初めてだな」
「そうですね。デューテさんの面倒を見たり、戦線で健闘されているのはよく拝見するのですが…」
「ほ、本当か!」
「ええ。お得意の風の魔法を放つ様は実に鮮やかですから」

人好きする笑顔を向けながら言われてリュートの気分は高揚し、妹の事も忘れて魔法に関する薀蓄を話し始める。
ルカも嫌な顔一つせず相槌を打ち、時たま「なるほど」と呟きながら彼の話を聞いていた。

長い長い薀蓄が終わった時には「興味深いお話をありがとうございます」なんて微笑みながら言うものだから、リュートのルカへの好感度は鰻登りだ。

「おっ…俺は、アルムの、友達だ!」

ルカの手を取り、息がかかりそうなほどの至近距離で。

「……?…ええ、先程仰っていましたね」

ルカは突然の事に少し驚いたものの手を振りほどく事なく、そのまま大人しくリュートの言葉の続きを待っていた。

「ルッ…、ルカもアルムの、友達だろう?」
「…はあ。…近しい関係、ではありますが」
「友達の友達は友達だ。だからっ、俺も、ルカの…ともっ、ともだっ…」
「二人とも、何してるの」

所々上ずった声で迫るリュート。「友達だよな?」と聞き終わる前にアルムが二人の元に姿を現した。
二人の手が触れ合っているのが気に入らないのか、不機嫌そうな顔でそこを凝視している。
気が付いたリュートが「すまない」と慌てて手を離すと、代わるようにアルムがルカの手を握った。それも、指先までしっかり絡ませている。

「リュートくんが魔法についての話を聞かせてくれたんです。勉強になりました」
「そうか。リュートは魔法に詳しいからね。さぞかしいい話だったんだろうな」
「ええ、とても」
「フフ…そうだろうそうだろう。アルム、お前もどうだ?」
「僕はいい。それより少し耳を貸して」

目を細めて話すルカ。
それを見るアルムの顔は至極穏やかだったが、リュートが話し出すと突如真顔になり、一息で断りを入れた。

(アルムの態度が俺とルカとで違いすぎる…!友達の友達は友達ではないのか…!?)

余りの態度の違いに彼は動揺していたが、大人しくアルムに耳を近づける。

「ルカは僕のだから。変な気起こしたら友達でも許さないよ」
「………???」

耳から離れたアルムが「わかった?」と威圧感たっぷりの満面の笑みで聞いてきたので、訳が分からないまま首を勢いよく縦に振った。

「お二人だけで内緒話なんて。私は仲間に入れてくださらないんですか?」

口を尖らせるものの、茶化すような声色で言うルカ。
アルムもまた悪戯っぽく笑いながら、空いている方の手で人差し指を口元に当てて。

「ルカには秘密。友達同士の大事な話だからね」

言って、アルムは再びリュートの方を見つめてくる。彼は今度も首を縦に振った。

「おやおや…妬いてしまいますねえ」
「ルカが心配してるような事はないから大丈夫」
「ええ。ちゃんと分かっています」

完全に二人の空気になってしまい、最早リュートの入る隙は微塵もなかった。
去り際にルカから「またお話を聞かせてくださいね」と言われたような気がしたが、定かではない。

言えなかった礼の機会をいつ作るかと、アルムが耳打ちした言葉の意味で悩んでしまい、彼は結局妹の元へと向かうのだった。



アルムくんを友達言うくらいだから同じくらいの年かなって思って敬称は"くん"で

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