褒めて!構ってー! | ナノ
ルカくんとデューテちゃん
野営の支度が終わり、ルカはふぅと一息ついた。
「ルカーっ!ボク、さっきの戦闘で新しい魔法覚えたよ!」
嬉しそうな声を上げて、パタパタと走って来たのはデューテ。
聞こえた声に振り向いたルカの腰に抱き着いて、人懐こい笑顔を向けた。
「それは凄い。是非、見せていただけませんか」
「そうでしょそうでしょ!ルカにだけ特別だよ!」
言って、デューテは掛け声と共に魔法を放って見せる。
「……それは、エンジェルの魔法ですね」
「あったりー!これでボクもバンバン魔物をやっつけちゃうからね!」
「デューテさんはいつも頑張ってくれていますから、私たちも助かっていますよ。ありがとうございます」
今日も大活躍でしたねと、労いの言葉を掛けて、ルカは道具袋からスイートクッキーを取り出しデューテに手渡した。
「えへへ……」
このようにルカが“褒めて褒めて!構って構って〜!”を巧みにこなすため、自然にデューテも彼を話し相手にするようになり、今ではすっかりお気に入りになったのである。
「あーあ。ルカがボクのお兄ちゃんならよかったのになあ。お兄ちゃん、お説教ばっかりで全然褒めてくれないんだもん」
「そうですか?よくあなたの事を気にかけてくれる、良いお兄さんだと私は思うのですが…」
「えーっ!?気にしすぎてウルサイし!あんなんだから友達いないんだよ」
受け取ったクッキーを頬張り、ふくれっ面でリュートの愚痴をこぼすデューテを諭すように、ルカは自分の兄の事を話す。
あまり立ち入った所までは言わなかったが、不仲で苦労したというのは十分に伝わったらしい。
「ですから兄弟に気にかけてもらえるというのが、私はとても羨ましいのです」
気にかけるどころか、疎まれていましたからねぇ…。と苦笑いをして見せたルカを見るデューテの表情はすっかり曇っていた。
「…大変だったんだね。ボク、もしお兄ちゃんにそんな事されたら耐えられない」
俯いて肩を震わせていたが、やがて勢いよく顔を上げて。
「怒って魔法でコテンパンにしちゃうかも」
「ふふ。デューテさんの魔法は強力ですからね」
「うん!お兄ちゃんにだって負けないよ」
落ち込み泣いてしまったのかと思いきや、発せられた言葉はとても強気なものだった。余計な心配をしていたらしいとルカは安堵の笑みをこぼす。
「ルカ!ボク、お兄ちゃんの所に行ってくる。新しい魔法、見せてあげるんだ」
「きっと喜んでくれますよ。行ってらっしゃい」
やって来た時と同じようにパタパタ走って行くデューテの背中を見送る。
数分後、あの兄妹の口喧嘩が聞こえてくるのを、まだルカは知らない。
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