つづきの つづき | ナノ
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ルカの背丈に合わせてしゃがみ、茶葉の量を見てもらう。
適量の返事を貰った後すぐにポットに茶葉を入れようとするとストップをかけられた。

「茶葉はまだです。ポットにお湯を入れて軽く暖めてください」
「ええ…お湯入れる前にわざわざお湯入れて暖めんの?」
「そのひと手間が美味しく淹れる秘訣ですよ、パイソン。あなただって、どうせ飲むのなら美味しい方がいいでしょう?」
「まーね」

飲めれば何でもいいなんて言ってしまうと、話がややこしくなりそうだったのでパイソンは大人しく同意する。
それから、ポットにお湯を注ぐ時、カップに入れる時にいくつかの手間を掛けて、お茶は完成した。

「いい香りです。よく出来ていますよ」
「どーも」

キッチンを出て、テーブルにカップを並べていると「ああ」と後から続いていたルカが声を上げる。

「お茶菓子を忘れていました。パイソン、先程の棚のいちばん上の段からお好きな物を取ってください」

言われた場所を開けると、チョコレートやクッキー、焼き菓子が規則正しく並んでいた。甘い物が大好物のルカに相応しいようなラインナップである。

「じゃあ遠慮なく……ていうか、酒の肴みたいな茶菓子入ってるんだけど」

焼き菓子の隣にはスモークチーズ、干し肉に珍味。どちらかといえば、茶請けとは言いづらい物が鎮座している。

「アルムくん用に用意しているんです。いつもお茶に付き合ってくれるので」
「あー…、若いもんなあ。こういうガッツリしたの好きそう」

かく言うパイソンも甘い物よりチーズの方が好きなので、それを皿に取りトレイに載せた。

「ルカも選んだら?ほら」
「いえ、わっ…!?」

私はどれでも結構ですので代わりに取ってください、と言いかけた所でパイソンがルカを抱きかかえる。
抱えられている本人は驚いて暫く目をぱちくりさせていたが「どれにするの」と促されると顔を赤くしながら棚の焼き菓子の方に目をやった。
余りの恥ずかしさに「ではこれを」と一番近くにあった焼き菓子を指差す。

「りょーかい」

その焼き菓子もチーズと同じようにしてトレイに載せて。
ようやく抱っこから解放されると思いきや、そのまま部屋の椅子の上まで運ばれてしまった。パイソンも向かいの椅子に腰掛けて、早速カップを手に取る。

「本当の子供ではないんですから、そこまでする必要はありませんよ…」
「いいじゃん、甘えてなよ。普段気ィ詰めてるぶん、俺だったらこれ幸いって思う存分楽するね」

照れくささで相手の顔が見られず、焼き菓子をフォークでつつきながら呟く。
パイソンはしっかり聞いていたようで、カップを受け皿に置くと今度は茶請けに手を付けながら「もっと気楽になっていいんじゃない」と返した。

「いつかは元に戻れるんだしさ、折角なら楽しめば?」
「……パイソン…ありがとうございます…」
「いー…え?」

返事をしようとルカの方を見ると、何故か彼の口が段々とへの字に曲がって行って、瞳には涙が滲んでいた。その涙は留まるところを知らず、すぐに瞳から溢れてぽたぽたとルカの頬を濡らして行く。

「……何で泣くの」

問いかけてもルカはかぶりを振るだけで答えない。と言うよりは、嗚咽のせいで答えられないというのが正しいのかもしれない。
これではまるで自分が泣かせたみたいじゃないかとパイソンは内心狼狽えたが、どう声を掛けていいかも分からなかったのでルカが落ち着くまで、淹れたお茶を啜って待つことにした。

カップの中身が無くなりかけた頃、嗚咽が治まった気配を感じて顔を上げると。

「寝てるよ……」

泣き疲れて眠ってしまったらしい。
子供って泣いたり寝たり忙しいモンなんだなあと独りごち、パイソンは寝息を立てるルカをベッドに寝かせてやるのだった。




子供特有の理由なき唐突泣きは本当に困る
(凹んでる時優しい言葉掛けられると泣きたくなる…ならない?)

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