そうして、私と白銀は両想いになったわけで。
嬉し恥ずかし、初々しい恋人生活が始まろうとしていた……が。



「なんでですか?…ワタシの事、嫌いなんですか!?」
「…嫌いじゃないけど……は、恥ずかしいの!」



話の要は、私が『私達の関係は皆には秘密にしてほしい』と言ったことが原因だった。
皆には秘密にしたい私と、
秘密にしたくない…寧ろ報告したい白銀。
早くも障害が目の前に。



「恥ずかしくなんてないです!ワタシはみんなに言いますから。」
「ダメ!!…言ったら私…白銀の事、嫌いになるから!!」



恥ずかしくなんてない…って。それは私が決める事だろうと思ったが、そんな事より『皆に言う』というフレーズが頭の中でリピートした。
そんなのは絶対嫌だ。
からかわれるに決まってる!!
言い終わると、私はダッと白銀の前から遠ざかった。



「……っ…凪冴さん…。」



ポツリと呟いた白銀の声は、凪冴はおろか誰の耳にも入らずに、周りの雑音に掻き消された。

凪冴はその後直ぐに帰ったが、自分の言ったことが忘れられなくて、悩んでいた。
明日、嫌でも白銀に会うだろう。
どんな顔をして会えばいいのか、夜遅くまで考えていた。



「昶ー、おはようー……白銀も、おは、よう…」



昶だけでなく、白銀にも一応挨拶をした。


「おぅ。」
「おはようございます、凪冴さん。」
「(あれ、普通だ)」



もしかして、昨日の事は忘れているのかもしれない。
気にしてない……?
私は思いきって、昨日の話題を出そうと試みたのだが。



「し、白銀…昨日さ……「何ですか。凪冴さん、ワタシに何か。」



笑顔なのに、笑っているように見えないところが怖い。
有無を言わせぬ威圧というか、なんというか…。
しかも、通常“?”を付けるであろう場所に“。”しかないという…また…。



「…あ、いえ、なんでも…ない…です。」



凪冴は罰が悪そうに、うつむき、後ずさった。
白銀は『そうですか。』と言ったっきり、黙り込む。
昶が『行くぞ』と声をかけて、私の前には誰も居なくなった。


学校が半分終わり、昼食の時間になった。
昶達が向かう場所に先回りし、待ち伏せる。
ガチャ──と扉が開いた。
開いた直後に白髪の男を確認する。



「しろがn…「昶くん、今日は──…」



呼ぼうとしたが、それは白髪男の声で掻き消された。
昶は黙って、数秒凪冴を見た。
しかし何も言わずに去っていく。
……いやいや、そんな事より。



「……(…なんであっちのが恋人っぽいんだろうか…)」



何だかそれを見ただけで、激しく落胆した。
ホロリと涙が零れそうだ。
それでも諦めず、話かける──が。
全く相手にされていない。


昨日、私が余計な事を言わなければ白銀が怒ったりすることもなかったんだろう。
──…私のせい…で…?
不安を抱いたまま帰りになる。
やっと、まともに声をかけることができた。



「白銀、」
「なんですか、ワタシは他人と話すほど暇じゃないんです。」



冷たい一言。
『他人』と言う言葉。
もう、ダメなのかな。



「おぃ、白銀!それは言い過ぎだろ!!凪冴が何したか知らねぇけど、いくらなんでも…」



珍しく昶が反発した。
今日1日の行動を見て思ったのだろうか。
それでも白銀は何も言わない。



「…───めんな…さい……」
「凪冴…?」
「ごめんなさい…白銀…。ごめんなさい…」



私は頬に伝う涙もかまわず、走り去った。
出来るだけ遠くへ。
彼に見つからないほど、遠くへ。
───…私は最低だ。
周りの評定ばかり気にして、彼がどれ程私の事を好きで居てくれたのか…考えたこともなかった。
私は…白銀が大好きだ。
でも、きっと…幻滅しただろうな…
嫌われちゃったかな。
そう考えると、余計に涙を煽る。
それでもたどり着いたのは、とある公園。
公園と言うより、庭園の方が合っているかもしれないそこは、人気がなく…自然に溢れていた。


一つの木を背に、しゃがみ込む。
不規則な呼吸が苦しい。
どれくらい時がたっただろうか。
既に日は傾き、沈みかけていた。このままじゃ、直ぐに夜だ。
立ち上がろうとすると、向かいの草木の間から何かが出てきた──………。



「……な──…コクチ……?!」



不意に出くわした黒いものに狼狽えながら、ジリジリと距離をとる。
私には、見えるだけで戦う術を知らない。
白銀や昶達がいないと、こんなにも怖いものなのか…。
どうする事もできない私は、一先ずそこから逃げようと考え、走った。
夜で周りは暗く、見馴れない場所なので方向感覚を失う。


「…ちょ…どういう事──?!………なんで逃げてんのに、数が増えてるのーー?!」



逃げても逃げても、出口は見つからない。
寧ろコクチが徐々に増えてきている。
怖い。
無理だ。
もう──体力が………
足が縺れて、転びそうになる。




もう───…ダメだ…───




膝がガクンと音を立てた。
前へ倒れ込む。
…しかし、倒れたさきは地面ではなかった。
誰かの腕の中。
この感じは…もしかして……。
思い出したかったが、本能的に考える事を拒否した。
…疲れた………。
そこが私の体力の限界だった。



気を失った凪冴の顔に、凪冴を支えた人物の乱れ髪が落ちる。
それは長く──白い髪。
青い瞳をした男は、いつものような敬語ではなかった。
凪冴を視線だけで見て……いつもより低く乱暴な口調になる。



「俺の女に何をした。どうやら…死にてぇみたいだな、糞餓鬼共が。」



異常なまでの殺気と共にコクチが後ずさった。その後、分の間もないほどの早さで倒していった。



****************



「…ん…?」



気が付くと、家の中だった。
…ここは…どこだろう?



「…あ、凪冴さん!気付いたんですね…。」



いつもの白銀が迎えてくれる。
本当にホッとしているような笑顔を見て、泣きそうになった。



「…白銀……ごめんなs…」
「…謝るのはワタシの方です…。避けたりして…大人げなくて、すみません。」



遮るように抱きしめられた。
驚く間もなく耳元で囁かれるその声に、余計涙腺が緩む。
私はそれに答えるように首を横に振った。



「…──してる…、愛してる…白銀。」
「ワタシもです、凪冴。」



この前よりも長いキスを交わす。



それは




愛を確かめるように。





愛の味を教えよう。
(これで、みんなの前で
イチャイチャ出来ますね♪)
(な…!…何言って…/////)





 
オマケ




 



 
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