どんな言葉で蓋をしようか

姉ちゃん、啓人くんのこと嫌いになっちゃったの?

「リクオ様ったら、璃音様にあんなこと言っちゃって!そうじゃないことなんてよーくご存知でしょう?」
「許してよ氷麗。姉ちゃんの口から、ほんとのことが聞ければいいなって、思ったんだよ」
「もうっ。…それで、何ておっしゃいました?璃音様」

「……"そういうことにしておこう"だってさ。」

「あら。"嫌いだよ"ってきっぱり言われるよりいいじゃないですか」
「何がいいもんか。僕が頼りない弟だから、姉ちゃんはいつまでたっても僕を守るべき者から外せないんだ」

「……うーん。そういうことじゃないと思いますけど、ねぇ」



*



「璃音ちゃんってさぁ、真面目でしっかりしてるように見えて、実はほどほどに適当でぬらりくらりと生きてるよね」

昼休み。一緒に学食で昼食を取っていた中学からの友人の言葉に、近くで食事していた女子が、私よりもぎょっとした顔で振り向いた。
はは、何を今さら。そんな風に受け流している私の姿を確認すると、ほっとした顔でまた別の会話に戻っていたが、茜ちゃんよ、その歯に衣着せぬ物言い、少し直した方がいいかもしれない。

「……っていう風に見せながら、実はめちゃくちゃ計算してる時あるからなぁ」
『茜ちゃんはば……単純だよね』
「ねえ今何言いかけた?ば?ば??」

顔を近づけてメンチ切ってくる茜ちゃんにガン無視をかまし、学食で頼んだカレーうどんをすする。あんまり近づくとカレーつくよ茜ちゃん。
私がカレーうどんに夢中なのを理解した茜ちゃんは、しばらくすると自然に顔を離し、これは私の小学校からの友人の話なのだが、と話し始めた。

「この間璃音ちゃんをどっかで見かけたらしくて。で、璃音ちゃんって結構色んな人の手伝いとかしてるから、有名じゃん?そしたら、ひとりは璃音ちゃんのこと計算高くて好みだとか言ってたんだけど、もうひとりが、自分に似て面倒臭そうだって言ってて」
『……好き勝手言ってるなぁ、男子は』
「えっ。何で男子ってわかったの」
『茜ちゃん私以外に女友達いないじゃん』
「あっ」

自分で言ってて悲しくないのかな。必要とあればそれなりに会話する相手のいる私と違って、茜ちゃんは男子テニス部のイケメンに信用されていて仲がいいだけで、学校の女子達に少し干されている。まだいじめに発展していないし、茜ちゃんが何も言わないので放置しているが……、まあつまり、茜ちゃんの言う友人が私以外であれば、それはおのずと男子以外にいなくなるのだ。

『まあ、ほら。私以上に単純明快な人はいないよ』
「……そりゃないわ〜〜」

単純明快っていうのは、私みたいのを言うんだと豪語する茜ちゃん。よくわかってるじゃないか。

『でも事実だよ。真面目でもなければ計算高くもない。したいからする。そうじゃなければしない。目的があって行動する。ある意味、茜ちゃんの考えが一番近いかもしれないけど』
「ふーん。……じゃあアッキーは?」

カレーが気管支に入るかと思った。死ぬわ。

「高校に入学してだいぶ経つけど、あからさまに避けてるよね?」
『……茜ちゃんが聞きたいのはそれか〜』
「アッキーしょんぼりしてたよ」

しょんぼり、と言う言葉に、一瞬脳裏にその姿が映った。妹のカナちゃんと違って鉄面皮なんだから、それはないだろう。
もし仮にあっても、だ。

『アキは友達が多いから、大丈夫だよ』
「……も〜〜。嫌いとかじゃないのに、何でかな〜〜?茜さん、お節介やいちゃうよ??」

今日は朝からリクオもその話だったなぁ。なんて思いながら、ごちそうさまでしたとカレーうどんの器を片づける。
―――ああ。茜ちゃんもリクオも、単純でまっすぐだからか。

「璃音ちゃんとアッキーのコンビ、好きだったんだけどなぁ」

私も好きだったなぁ。

3

前へ | 次へ

栞を挟む

どんな言葉で蓋をしようか

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -