私は、ほんとは

さっぱりと、未練なく捨てることができた。光沢のある表面が、パチパチと音を立てながら焼ける。火はさらに勢いを増し、独特な臭いが辺りを包む。
写真の中で笑みを浮かべた誰かが、黒に侵食されて燃えていく。それを見て、やはり思うのだ。

私は、ほんとは思い出が嫌いなのだと。

「……あっ、お嬢!いた〜!全く何だってこんなところに…探したんですよぉ!もう!」
「璃音様!!火なんて使って何を…、」

私の部屋の散らかしようを見て、ずっと私を探していたのだろう側近の首無と、護衛の片割れである毛倡妓が現れる。はあはあと息を乱している、その息遣いがよく聞こえる。本当に、必死になって探してくれていたのだろう。色んなことがここ数年で起こっている。私も弟のリクオも、最近はその不穏さを感じ取っている。
そんな中、普段は部屋も身なりもきちんとしている私が、まるで物取りが入ったかのような部屋を残していなくなったとあれば、こうもなるか。
何も言わない私の手元を覗き込んだ首無が、息をのんで黙った。

「…これは……」

毛倡妓が、私が手に持った最後の写真に手を伸ばすが、届く前にその手をぱっと放した。当然、写真は重力に従って下へと落下する。
向かう先にはたき火しかない。

「あっ、」

燃える。燃えていく。そしてなくなっていく。最後の写真が。何も知らず、幸せだったあの頃の写真が。

「…璃音さ、」
『いいんだ』
「……」
『いいんだ、これで。これで…』

あの頃はよかった。あの頃に戻りたい。そんな後ろばかりを振り向く原因を持っていたって、仕方ないのだから。女々しい女に生まれてしまった私が決心をするには、こうするしかないのだ。
何も難しいことはない。何も悲しむこともない。もう全て、今はないものなのだから。

これでようやく、前だけを向いて歩ける。

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