Past Winter:Don't cry

冬の寒い日だった。まだ日の昇りきらない、明け方頃。
布団から出した鼻先がつんとして赤くなっていて、ばたばたと部屋にやって来た姉貴の言葉に目が覚めた。中学三年生の冬。高校受験を目前に控えている。慌てて布団から跳ね起きたところで、ふと、昔にもこんなことがあったなと思った。俺が小学六年生。あの日は冬だってのに雨がしとしとと降っていて、雨独特の匂いが辺りを包んでいて、体の芯からを凍らせるような寒さで。いつまでも降りやまない雨の中に、ぽくぽくと一定のリズムで、あの独特な木魚が坊主のお経の声と共に続いていた。いつの間にか雨はざあざあ降りになっていて、参列者の中には眉根にしわを寄せる人もいた。あくびをしている人もいた。俺はどうにも、それが気にくわなかった。
ご家族の方から、という焼香の声がかかって立ち上がった少女を見て、ひそひそ声が聞こえる。あの白い髪。白い肌。短命だって言うじゃないか。病気持ちらしい。遺伝じゃないのか。ああ、じゃあきっとあの子も。
どう考えたって聞こえる声だった。幼かった弟は不思議そうな顔をしていたけど、姉貴は顔を歪めていたし、おかんやおとんだって何かをこらえるような顔をしていた。だから、あの子にも聞こえているはずだった。聞こえている、絶対に。
でもあの子はすました顔をしていた。
泣きはらしてふらふらと歩く母親の腕を引っ張り、すたすたと歩いて焼香の前に立つ。
幼馴染のあの子は、泣かなかった。

「雅治、何してんじゃ!はよ準備せんと置いてくよ!」

つい呆けていた俺に、姉貴の怒号が飛ぶ。すぐに準備すると返して姉貴を部屋から追い出し、着替えながらまた思い出す。
なんで佳織ちゃんは泣かんのじゃ。辛かったら無理しなくてもいいんですよ。幼馴染のあいつと一緒になって、幼馴染のあの子に必死に声をかけた。でも俺の記憶が正しい限り、やはりあの子は泣かなかった。

あの子はとても強い子で。
どんなことにも負けない、芯の強い子で。
でも、かわいいかわいい、大切な俺達の幼馴染で。

「今、白河のおばさんから電話来て…佳織ちゃん、やばいって。今日が峠だって。おとんが車出してくれるって言うから、雅治あんた、はよ病院行かな!」

こんなところで、いなくなっていい子ではないのだ。

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