:At Majiba

佳織ちゃんの髪、すっかり真っ白じゃな。そうだねえ。光に透かすときらきら光って、楽しいよ。若白髪が強がるんじゃなか。えー?私は、結構気に入ってるけどなあ。
そんな話をした翌日に、あの幼馴染は髪を脱色してきた。
生まれつきあの薄い水色の髪色のテツと、幼い頃から段々と色素が抜けていった私。ハルは昔から生まれつきの黒髪だったけど、その日から、私にそっくりな髪色になった。もちろん家族にはこっぴどく叱られ、学校では反抗期かと言われたらしいが、そんなことでめげるハルではなかった。ほら、見んしゃい。お揃いじゃ。
あの、嬉しそうに笑った顔だけが、まるで今までの人生のハイライトだったかのように、脳裏に焼きついて離れない。

「どうしたんですか。ぼーっとして」

カタンと音を立てて、机の上にマジバのバニラシェイクが置かれる。どうぞ、と差し出された一つを受け取れば、マジバの外に目をやったテツが、ああ、と呟いた。
ちょうどこの席からは、外を歩くテニスバッグを持った学生たちが見える。

「…そういえば、黄瀬くんからの一斉送信メール見ました?」
『……黄瀬?』
「これです」

シェイクを啜るのをやめると、眼前にテツのスマホの画面があった。LINEでなくメールを使うとは珍しいと思いながら、その文面を見る。……白河っちの学校どこっスか?俺、着拒されてるみたいで!
ぴーぴー泣いている顔文字が表示されていたが、これも真顔で打っていたんだろうなと思うと、笑えてしまう。

『教えた?』
「勝手に連絡先を教えるような人はいませんよ。それに、黄瀬くんが学校に押しかけるんですよ?想像してみてください。どう考えても、雅治くんにバレます」
『私の努力が水の泡ってね』

まあ、今朝の理紗の話を聞く限り、既にバレている可能性が無きにしも非ずって感じだったのだけど。自分のスマホを開き、迷惑メールフォルダを見てみれば、確かに、その中に以前着信拒否設定にした黄瀬のメールが入っていた。赤司、紫原、青峰、緑間、黒子、桃井、灰崎…同中連中に一斉送信とは。これはうざがられても仕方ない。
きっと、まともに返信したのは桃井や灰崎辺りぐらいしかいないんだろうな。
そう思うと、何だか黄瀬が突然かわいそうに感じてしまって、結局着信拒否設定をそっと解いた。一時期、連絡が殺到していた時は殺意がわいたが、今はその気持ちも薄れてきている。頃合いだ。許そう。

『黄瀬が私を探し始めたってことは…、部活動が始まったのか』
「はい。桃井さんの情報網にも引っかかった頃でしょうね」
『あ〜…桃井ちゃん……』
「桃井さんは頭がいいですから、うっかり誰かに居場所を教えるなんてことはないと思います」

ズズッ、とシェイクを吸い込む音だけが大きく聞こえる。
確かに桃井ちゃんは賢いから、私が同中連中に進学先を教えなかった理由を知れば、まあまず、誰かに連絡先を教えるなんてことは、例外を除いてないはずだ。

『テツのとこも練習始まった?』
「はい。前に話した実績のある先輩方は皆さんいい人でしたし、性格には難ありですが、アメリカ帰りの帰国子女もいます」
『へえ、強いの?』
「粗削りですが、磨けば光ると思います」

あ。その人、次のテツの光候補だ。まんざらでもなさそうに告げるテツに、早くも居場所を見つけたようで、安心した。

「佳織さんはどうですか?最近」

テツの問いに動きが止まる。……部活も高校では一切やっていないし、入学してからずっと、通学の電車の中と学校を行ったり来たりするばかりだ。たまに放課後、特進クラスのゼミで残っているくらいだろうか。

「あ、待ってください。言わなくていいです。想像できました」
『うわ腹立つなぁ』
「もうバスケ部入らないんですか?」
『スタート遅れた時点で察してほしいな』

そろそろ家に帰らないと母に心配をかける。シェイクを飲み干し、容器を空にしたところで、ダストボックスにシュートの要領で投げ込めば、それは綺麗な弧を描いて穴の中へと吸い込まれる。
これだけ体は覚えているというのに、ボールを持つとしっくりこないのだから謎だ。

駅前のマジバを出た時、空には既に綺麗な星が出ていた。

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