キミの色 >>

またか。
何とか苦労して昇降口までたどり着き、生徒会室で昨日残した分の仕事を片して職員室へと向かった。昨日の遭遇したものの疲れも、夜にランニングをした疲れもあるというのに、何という傍迷惑なやつ。
もう今朝だけで何度目かもわからない柳の友人達に、陰でそっとため息をついた。
諦めの悪さ。
粘着質さ。
普段、忍耐力がある、努力家であるなどとたたえられる人達は、どうしてこう、その使うべきところを間違ってしまうのか。少なくとも、それは一校の生徒会長を追い回すためのものではないと認識している。

「…はよございます。会長」

何とか人通りの多い場所を通り、途中適当な教室に寄り道をして相手を撒いた。
やべえ!見失った!なんて声がどこからか聞こえたが、お生憎様、私はここだよなんて声をあげて片手をあげて出て行ってあげる気持ちは微塵もない。ユキムラくんに怒られる!サナダの鉄拳制裁が!……間違いなく、柳の友人。男子テニス部総出で探していたりするのだろうか。
ため息をつきたい気持ちだ。失礼しますと職員室の扉を開いたところで、聞き慣れた男子の声が近くで聞こえて振り返った。庶務の佐藤くんだった。

『あ、おはよう佐藤くん。昨日の書類?』
「昨日何だかんだできなかったんで。会長は……議事録っすか」
『昨日出すの忘れちゃってさ。先生は…いないね。置いておけばいいかな』

生徒会の顧問の机に向かえば、案の定そこに目的の人物はいない。机上には、ただいま出かけていますという文字の書かれた小さなホワイトボードがぶら下がっているだけだ。
やっぱりか。勝手に先生の持ち物からペンとメモ用紙を拝借し、議事録に目を通してほしい旨を書いた。

「そう言や、顧問って誰なんすか?」
『え?知らない?』

そういえば、日向や佐藤といった一年生が生徒会に入ってからはまだ顔を出しに来ていないかもしれない。そろそろ顔合わせをしないとまずいなぁ。

『藍田先生だよ。家庭科の』

確か今年は一年を担当していなかったか。そう付け足せば、確かにそんな先生がいたかもしれないと佐藤くんは曖昧に頷いた。せめて自分の学年の先生だけでも覚えておいてあげてほしい。
近いうちに会えるように手配しておくよ、と約束をし、すり終わったらしいコピーを佐藤くんから受け取った。

「ふーん…藍田センセってどんな先生なんすか」

職員室の外。廊下での足音がしなくなって、じゃあそろそろ教室に戻るかと職員室をあとにしようかとしたところで、再び佐藤くんに声をかけられた。
どんな。そう聞かれて、ふと立ち止まって考える。
ふわふわとした、女性らしい先生というか。名前とは正反対の、ピンクが似合う先生。でもそんな抽象的なことを言ったって仕方ないと思い至り、手近な、佐藤くんのよく知る身近な人物に絡めて話した。

『柳とはすこぶる相性が悪い…かな』
「…柳先輩と?」
『うん。朗らかな優しい先生だけど、苦手な人は苦手だろうねぇ』
「ええ…俺、機嫌悪い柳先輩が一番苦手なんすけど…」
『はは。下手なことをしなきゃ大丈夫だよ』

兄よりは怖くない。


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