キミの色 >>

一、二年生を帰宅させた後。電気の煌々とついた生徒会室で、私と椿と柳の三年メンバーは各々書類に目を通したり、USBのデータを書き換えたり、ファイルを整理したりと仕事を続けていた。
……毎年のことながら、やはり新学期を迎える四月は仕事量が半端じゃない。この調子ではおそらく、柳は今日の部活に参加することは不可能だろう。柳の所属する男子テニス部は功績が立派だから、練習に参加させてやれないということが余計悔やまれる。生徒会長として生徒の時間を縛ってしまうのは不本意だが、このくそ忙しい時期だ。優秀な書記を手放すことは考えられなかった。
ごめん柳。お前達が高校では三連覇を、と意気込んでいる様子は彼からよく聞いているけれど、それでもやっぱり私にとっては目先の利益が大切だ。仕事が滞っては困るし、別に彼に逃げ道を残していない訳ではないし。
そんな事を頭の隅で考えながら、長時間動かないせいで凝る肩を軽く動かし、ふう…と溜息を吐いた時だった。

ふっ…と一瞬、夕暮れ色が何かに遮られた。

本来は真っ白な書類だが、後ろの窓から差し込む夕日で黄色とも橙色とも言い難い色に染まっているそれ。それが一瞬だけ、何かに遮られ影色に染まった。
うん?と首をひねるも、今は忙しい。最終下校時刻に向けてのラストスパートなんだ。そう自分に言い聞かせ、もう十五、六枚ほどとなった書類に手をかける。……と、また何かが夕日を遮った。

「「……………」」
『……手、止めないで。終んなくなるから』

椿はパソコンの画面を、柳はファイルを見たまま、目線をそれから外さずに動きを止める。私もまた、書類から目を離さずに口を開いた。再び椿と柳が仕事を再開するも、そのタイミングを狙ったかのようにして影が遮る。
ぺらり。今度は私が書類を変えるタイミングで遮られた。四回目、だ。
ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら……、書類全てに目を通し終わった。
途中読む速度を上げてみたが、それでも影は私が書類をめくり変えるタイミングで夕日を遮った。ふっ…ふっふっふっ……ふっ…、と。そんなペースで、一度もずれない。

『椿、終わった?』
「おん」
『柳は?』
「……ああ、一通りは終わっている」
『さっすが。上出来だよ』

顔を蒼白に染めながらも仕事をやり遂げる精神は、買いだ。
いつの間にか冷えている生徒会室の室温を気にしつつ、二人に荷物を持つように告げた。生徒会室の施錠だが…まあ、一日くらいどうってことないだろう。柳に扉の方を向くよう、告げた時だった。

ぐしゃっ

「…っ……!」

もしそれがあれだったとしても、普通、一階の地上の音は四階まで聞こえない。それもあんな生々しい音は。恐怖か、驚愕か、それとも覚悟か。柳の息をのむ声が聞こえ、私は内心最悪だと独りごちた。職業柄慣れているとはいえ、私も人並みに恐怖心はある。知ってるか柳。これ、私が一番それに近いんだぜ?真後ろだぜ?ついでに言えば、さっきからめっちゃ凝視されているのが背中に纏わりつく視線でわかる。
今の感情はぶっちゃければビビった、とかに近いだけだけど、人間の骸とか……まあ、自分から進んで見たいとは思わないですよね。はい。

ぐしゃっ
ぐしゃっ
ぐしゃっ…

「振り返ったらあかんよ、柳。お得意の、頭の中でごちゃごちゃ考えるのもなしや」

ワンパターンだなおい、なんて考えていると、椿の声で我に返った。どうやら柳、あの悪趣味なそれとご対面をしようとしていたらしい。
うわあ……いや、別に止めはしないけど。
密かに、小声でぶつぶつと呟いていたそれが言い終ると同時に、私は自分より大分高い位置にある肩に手を勢いよく置いた。瞬間、そう強く叩いた訳でもないのにばちんっといい音が響き、二人の内、柳だけが驚いたように肩を跳ねさせた。椿の方は、まあ、慣れとだけ言っておこう。肩を組もうと思ったが、そこは男女の差。無理だったので、何の声掛けもなしに手をつないだ。柳を真ん中に、右を私、左を椿で固める。
いつもは見ることの出来ない柳の困惑している様子が面白くて、私は今までビビっていたのが消え失せた。運がよければ何とか骸は見ずに済むだろう。頑張れ、私の体力。

『一気に階段駆け下りて、三年昇降口で靴だけ手に持って正門まで走る。その間、窓と鏡類は絶対見ないし、手は離さない。いいね』
「…承知した」
『理解が早くて助かるよ。椿、余計なことしたら置いてくから』
「はいはい、十分承知しとるよ。それ以外で何やあったら、助けて」
『もちろん』

―――ぐちゃぁ

一番嫌な音がした瞬間、私達は手を繋いだままに生徒会室を勢いよく飛び出した。


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