キミの色 >>

―――先見の、未来を知る力は嫌いでした。けれど皮肉なものです。息絶える日が近づいてきた今は、その力があってよかったと思うのですから。

僕は花開院本家の長男としてあの日この世に生を受け、この十数年間を生きてきました。
爺様方に比べれば短いながらも、中々色濃い人生を歩んできたと思います。辛いことや苦しいこともたくさんありましたが、やはり僕は嬉しいことの方がよく覚えている。特に、僕が中学生の時にきょうだいが生まれた、十月二十四日は今でもよく覚えています。一人きょうだいが増えるだけでも嬉しいのに、僕のきょうだいは双子でした。しかも、女の子と男の子。
璃玖、竜二。お前達の名付け親は、兄の僕です。
漢字が難しくて書きづらいとか、名前が書けないとか、よく言われるたびにお兄ちゃんは地味に傷ついていました。
竜二は自分のものには名前を書くという習慣がすぐについたからそうでもなかったけれど、璃玖は名前のおかげで中々その習慣がつかなかったのです。女の子だし、陰陽師的よりも可愛い華やかな名前がいいだろうか…画数多い方がかっこいいだろうか…意味はどうしよう…と、男の子の竜二以上に悩んだ結果です。正直、悪かったなと思っています。ごめんなさい。
お前達には妹も弟もできるからね。きっと僕みたいにたくさん悩んで、名前を付けてやってください。

そうそう思い出しました。名前と言えば、気がかりなことがあります。

つい先日、皆で育てていた家の者にバレてしまった、妖狐のことです。本家の人間は皆、口をそろえて滅せだの追い出せだの封印しろだのと言っていましたが……いや、誰とここに明記しておくのはやめておきましょう。手紙とは記録、即ち後々まで残ってしまう。もちろん誰かが燃やしてくれれば問題はありませんが、僕の先見通りだとそうはならないようなので。
とにかく、君はその妖狐をこっそり逃がしましたね?子どもとは思えない狐の死体の偽装の仕方に、僕はとても驚きましたよ。
とはいえ、安心してください。僕も妖狐を邪魔者扱いするのは嫌だったので君の味方です。本家の人間なら誰でも…分家の人間でもわかりますね。彼らの言葉を借りれば、僕はあの羽衣狐に精神までもを呪われた忌子らしいですから。絶対的に妖怪は黒、人間は白とは考えられないのです。しかし君は君の考えを持てばいい。決して誰の意見にも左右されることなく、己の考えを持ってください。
さて、話を戻しましょう。君が妖狐を人間に化けさせて逃がしたのはよかったですが、問題はその彼の名前です。君は彼に名前を与えていましたが、人間には姓名というものが存在します。それがない人間など、現代にはあまりいませんからね。彼のことに関して、それが気がかりでした。……まあ、彼ならどうとでもなりそうですけどね。あんまり心配はいらないでしょう。名前という縁がある限り、またどこかで会えますし。






こんなに長い文をしたためたのは初めてかもしれないですね。先ほど、用意しておいた墨が足りなくなったので補充しました。そろそろ終いにしましょう。

僕がこんな手紙を書いたのは、僕が明日の正午ちょうどに死ぬからです。未練が全くない訳ではありませんが、どうしようもない事なのでこうして筆を執りました。
自分が死ぬことに気づいたのは、ちょうど病を患った1年半ほど前です。決して、病気のせいではなかった。羽衣狐の呪いというのは僕には解けないようだ。悔しいけれど、僕の負けです。
僕は遺体も残らないでしょう。骨…は怪しい所ですが、僕に関するもののほとんどが残りません。誰とは言いませんが、僕のいる離れごと、放火してしまう輩がでますので。この手紙だけは燃やされても困るので、一番安全と思われるお爺様…、当主に渡しておきます。くれぐれも、その時間帯に離れ近くを通る方は気を付けてください。僕と一緒になんて、死にたくないでしょう?もしそうなったら連れて行きますからね。成仏していただきます。

お爺様、両親ときょうだいを、何卒、よろしくお願いします。

お父様、お母様。僕をこの世に産んで下さり、ありがとうございました。
僕の陰陽師としての目標はあなた方2人であり、将来こんな家庭を築きたいという理想像でもありました。先立つ不孝をお許しください。

璃玖、お前はお前の信じたものを貫きなさい。己の力を隠すのも止めなさい。守りたいものが守れなくなってしまうから。
お前はこの僕の自慢の妹です。どうか胸を張って。これから先の不幸でもくじけないで。お兄ちゃんはいつでもお前達を見守っているし、いつだってお前達の味方です。愛しています。お元気で。

竜二、お前は僕のせいでいずれ不器用な生き方をするようになる。僕も一時期そんな頃があったからわかります。
自分で自分の限界を決めるな。まだ何とかなりますから。お前には双子の姉がいます。助け合い、協力して守りたいものを守りなさい。僕の愛の力で、お前への狐の呪いなんて跳ね返してやるから。だから、俺の分まで生きて。

それからハルくん。璃玖とお前の会話を僕は盗み聞きしただけだから漢字がわからないけど、まあ色々と許してほしい。
僕はお前の言っていた狐の故郷というところが見てみたかったです。もっとたくさん話をしたかったし、元気になったらお前と山を駆け回るのもよかったかもしれない。
また、花開院に遊びにおいで。他の奴らにはみつからないようにするんだよ。俺はもう生きて会えないけれど、璃玖と竜二がいる。お前の家族であり、親友だから。お前はもう一人じゃないって事を自覚してほしい。

ああそうだ、この手紙の管理は璃玖にお願いします。璃玖なら、失くさずにちゃんと持っていてくれるだろう。
―――…それでは皆々様、さようなら。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -