百戦百勝。勝つことだけが唯一絶対の理念だった。
毎日の練習は決して生易しいものではなくて。つらくて、厳しくて、それでも楽しかった。試合に勝つことができて、嬉しかった。自分を高みへと持っていけることに高揚を感じた。自分の強さを驕らず、良い好敵手であることができた。強さを履き違えることがなかった。いつまでも、バスケを好きでいることができると確信できた。

少なくとも、私の代は。

部活を引退して、しばらくした頃。風の噂に、後輩達の話を聞いた。
百戦百勝。それを忠実に守り続けた後輩は、常勝のプレイヤーになったらしい。他に追随を許さない、孤高の存在。向かう所に敵なし。自分達を見ては、皆、戦意を喪失して去っていく。才能が開花したのだと、コーチは言っていた。
卒業前に見た最後の大会。過去に見た楽しそうにバスケをする後輩達はいない。
開く点差。やる気のない部員。圧倒的な力の差に、戦意喪失する他校。点取り合戦ゲームをして暇を潰す、件の後輩達。目立つ個性を持たなかった後輩は、静かに部活を去る。
―――彼らは後に、キセキの世代と呼ばれるようになった。

「お、来た来た。久しぶりだな、黒子。桃井」
「お久しぶりです。虹村先輩、松川先輩」
「お久しぶりです〜今日はおふたりで揃って、どうしたんですか?」
「いや、お前らには話しとくかと思って。な、松川」

校外での待ち合わせは久しぶりだった。
後輩と顔を合わせること自体、何かとばたばたしていた最近では珍しいものだったが、駅前での集合となるとことさらだ。中学の卒業式後、制服姿の虹村と、私服姿で大荷物を抱える私を見比べて、後輩ふたりは不思議そうな様子だった。

『宮城に、戻るんだ』
「俺は明日アメリカに行く」

案外言葉はすらっと出てきた。後輩を容易く捨てていくような先輩を、この子達はどう受け止めるのだろうか。
ぽかんとした表情の後輩達の目には、驚愕の色が映っていた。

next
×