腕っぷしの強い母と、物腰穏やかな父。そんな両親のもとに生まれたのが、私と一静という一卵性の双子だった。男女の差はあれど、両親にはよく似ているといわれる。
まるで他人事のように言う。これというのも、どういうわけか、一緒に生まれたきょうだいは今も風邪ひとつひかずに元気でいるというのに、私が生まれつき体が弱く病気を持っていて、生まれてすぐに父と一緒に東京へ上京してしまったことに由来する。
父は報告を兼ね、ちょくちょく実家へと帰っていたようだが、大抵長期の休みは病院にこもりきりであった私は、あの日以来、実家へと戻ったことはなかった。
しかし、どうか勘違いしないでほしい。家族仲は至って良好であるし、母や一静と一切連絡を取っていない、なんてこともない。むしろ、一静とは仲がいい方である。

「エッ。潮が帰ってくるのって明日じゃなかったの!?」
「実は今日でした〜〜!」

仲がいいから、こういうこともできるのだろう。
仙台駅まで迎えに来てくれた母の車に揺られて、約1時間ほど。そういえば一静には何も連絡をしていなかったなと揺られながら思っていたのだが、母か父のどちらかが連絡を取っているだろうと結論付けていた。
しかし、母達は母達で、一静をびっくりさせようとしたのか、私が帰るのを明日の日付で教えていたようだった。
家の中に荷物を運びこみ、開封作業を後回しにして、とりあえずリビングでお茶でもという母に従ったところ、東京でのことを根掘り葉掘り聞かれて、さらにまた1時間。そろそろ恋バナでも、と母に遠慮がなくなってきたところで、賑やかな声と共に玄関の扉が開く音がした。
本当に母は何も伝えていなかったらしい。
度肝を抜かれたかのような顔をしたきょうだいは、玄関先で荷物を落として固まっていた。

「ちょ……潮も言ってよ……」
『忘れてた』

少し申し訳ないと思う。きょうだいであろうと、女には見せたくないものを隠したい時間もあっただろうに。
母の、玄関先でいつまでも突っ立ってるんじゃないの、という声に、一静と2人して母の後を追うようにしてリビングに入る。一静の進学先である、青葉城西の男子バレー部はもう新入生を交えた練習が始まったようだ。どさっと、ソファーの脇にエナメルバッグが置かれた。

「……あ、完全に言うタイミング逃したわ。おかえり、潮」
『うん。ただいま』

邪魔だって言われたらどうしよう。一静がそういうことを言うような人物でないことは、連絡を取り合っていた時からわかっていたが、それでも何度かはそんな根拠のない不安が頭の中を飛び交っていた。

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