嘘の黄金比率はご存知? [5/5]
今日は4人共定期検診の日だから賢木の所へ行くように。僕は研究室にいるから。
と、暗に寄り道すんじゃねーぞというお言葉を皆本主任からいただいてもう20分になるが、私達は今だ検診までたどり着けていなかった。

「仕事とアタシ、どっちが大事なのよっ!!」

バチン!と勢いのいい音が1つ、女性の甲高い怒声と共にざわつくバベルの1階フロアに響く。
今に始まったことではないが、賢木先生の女癖はお世辞にもいいと言えたものではない。うっかり透視んでしまったことがあったが、あの時はしばらく賢木先生に近寄らなかった。色んな要素が絡み合って賢木先生はああいった行為に走るのであろうけども、それでも根はただの女好きである。ドン引き…と言わんばかりにバベル本庁の入口で薫ちゃん達と共に固まっていれば、頬に真っ赤な紅葉を付けた賢木先生がこちらに振り向いた。周りにどこかの学生を引き連れているが、紛れもない。
女癖の悪さはバベルで1、2を争う賢木修二先生である。
何やってんだあの人。

――チルドレンに佳織ちゃんちょうどいい所に!助けてく…

頭に直接響いてきた声を途中で遮断する。男女関係のもつれほど面倒なものはないと思っているので、自分でなんとかしてほしいものである。どうやらそう考えているのは私だけではないようで、精神感応をとっくに遮断した紫穂ちゃんが「くっだらない」と早々に吐き捨てていた。この子は将来有望である。その、感応系の力を持っていないが故にイライラしている薫ちゃんとか葵ちゃんを華麗にスルーしている辺りが特に。

「あああ……賢木先生うるっさい…!」
「自分のこと何やから自分でなんとかしいや…」

更に喚く女性を見て、だらだらと冷や汗を流す賢木先生。正直自業自得だと思わなくもないが、あまりここで時間を消費するのも問題だ。
あまり皆本主任の機嫌と信頼を損ねるのは得策とは言えない。自由が利かなくなるのは大問題だ。

皆の思いが一致したところでじゃんけんで誰があれを止めるか決めた。一発で負けた解せぬ。

『あのー…賢木先生の彼女さんですか?ちょっと、お耳に入れておきたいことが』
「なっ、なによ」

耳元に口を寄せて、ごにょごにょと。1分程度で簡潔にお話したところで、彼女さんはプルプルと震えだした。お、成功っぽい。
まだ比較的時間の早いバベル本庁で、彼女さんは私が吹き込んだ根も葉もない嘘を大きな声で叫んでお帰りになられた。

「―――修二が男も女もどっちもイケるなんて、アタシ、知らなかった!!!」

職員呆然、学生さん狼狽える、薫ちゃん爆笑、葵ちゃん失笑、紫穂ちゃんだけがグッジョブと親指を立てて返してくれる中、シーンと静まり返ったその場に、「俺だって初耳だよ…」という頬を抑え呆然とする賢木先生の声が響いて印象的だった。
もちろんその後、もうあんな冗談はやめてくれと賢木先生にお願いされるまでが様式美だったりもする。
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