胸に残る一番星 | ナノ

  わんこがふたり


「お前、ワンコロ好きだなあ」

 町の中、民家の中、路地裏でもどうぐやでも、犬を見かければそれこそ犬のように寄っていき、その頭を撫でるクセがあるイレブンの隣へ、カミュもしゃがむ。その言葉にイレブンはきょとんとしていた。まるで意外だというような。

「そう、なのかな。あんまり、自分がそうだって思ったことなかったや…」
「おいおい、誰がどう見てもそうだろ。ナプガーナ密林でも、撫でまわしてたじゃねえか」
「うわっ、あれはもう思い出すと申し訳ないから止めてよ〜…」

 イレブンがか細い声を出しながら両手で顔を覆う。それまで気持ちよさそうに撫でられるがままだった黒犬が、きゅうん?と鳴く。もう終わりなの?とでも言いたげだ。野良なのかペットなのかもわからないがずいぶんと人懐っこい。代わりにカミュが手を伸ばしよしよしとしていた。イレブンと違って荒っぽい手つきだが、黒犬の方はまた満足げに目を細めていた。

「…でも、自覚なかったけど、そうかも」
「ん?」
「…犬を見てると、ルキを思い出すんだよね。だから、つい」

 ルキ、というのは確か、イレブンの村で共に育ったらしい犬のことだったか。「つい」、その先の言葉はなかったが、何となく察してしまう。どこか遠い目で、犬を通して見つめていたのは彼が奪われた故郷だったのかもしれない。

「そうか」

 こんなとき、自分たちは何と返せばいいかいつもわからなくなってしまうが、彼の相棒は怯むことなく接するのだ。

「これぐらいの犬だったのか、ルキってのは?」
「…あー、もう少し大きかったよ。エマと一緒に拾った頃は、もっと小さかったのにね。成人の儀式のときは、スライムにも飛びかかっていくぐらい強くなっちゃって」
「そりゃ頼もしい限りだな」
「うん、そうなんだよ」

 イレブンはくしゃりと笑って、自分の立膝に顔を埋めた。色々思い出してしまったのだろうか。カミュは右手で黒犬を撫でたまま、隣で沈んでいる頭にそっと左手を乗せる。見るからに優しいその手は、きっとイレブンのこころを撫でている。

 例えば相棒にそうやってされると照れくさそうに、でも嬉しそうに目を輝かせるところだとか、素直なところだとか、すぐ心配して気にかけて寄っていくところだとかを見ると、イレブンの方が犬っぽいのだが。その実、どんなときでも自然とイレブンに寄り添うカミュの方が、忠犬のようである。それは決して悪い意味合いではなく、むしろ勇者にそんな相棒がいることは良かった、と少し離れたところで見守りながら、自分たち仲間はみな思うのだ。




お題「犬」
190526

Clap

←Prev NEXT→
top


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -