胸に残る一番星 | ナノ

  苦手なじいさん


「ねえ、たまには席替えしてみない?」

 日が暮れる前に今日のキャンプ地を決め、たき火を起こし、テントを張り、夕餉の支度も整え、いつものように椅子代わりに集めた丸太に座ろうとしたときのこと。
 突然シルビアが歌うように提案してきた。曰く、キャンプのときに座る順番が気づけばいつも同じなので、たまには変えてみましょう、とのことだ。

「まあ、学校みたいで素敵ですね!」

 セーニャが笑顔で乗ってきた。勇者さま一行において基本的に彼女たちの権限は強い。特に不満の声も上がらなかったので、席替え≠ヘ行われることとなった。

 シルビアが即席で用意したくじ引きの結果、カミュの隣はロウが座った。勇者の祖父であるところの彼が、カミュは少し苦手なところがあるので内心マジか…と思ったが顔には出さなかった。
 別にロウ自身がどうこうではなく、マルティナに対してもそうだ。元盗賊の身としては、王族などいう存在は落ち着かないのである。
 そんなことを言ったら勇者さまとて実はそうなのだが、何故だろうか、イレブンのそばにいて息苦しくなったことはほとんどないので、まあそういうことだ。


「のうカミュ、前々から聞いてみたかったんじゃが」
「ん? 何だよ」

 夕餉をもくもくと食べていたら、ロウが妙に鋭い目つきでこちらに声をかけてきた。

「お主からまったくムフフな話題を聞かないが、好みのタイプとかないのかの」
「……何だそりゃ」

 身構えた意味は特になかった。「別に、ねえよ」と言うと、不服そうな顔をされたが困る。

 この話を続ける気はない、という意思表示に体を前に向けると、斜め向かいに座るイレブンが目に入った。仲間が増えてからはずっと隣同士で座っていたため、こうして少し遠くから見るのも変な感じだ。何とはなしに見ていたら、ふいに目が合った。何故か小さく手を振られ、まるで子どもみたいな仕草にふっと笑ってしまった。

「……イレブンもな、特にないと言っておった」
「……は?」
「好みの女の子やガールフレンドじゃ」
「ああ……あいつは奥手だしな……」

 ていうかその話続ける気なのか、と思ったが、もしかしたら本題はここなのかもしれない。ロウとしてはカミュよりもイレブンの方がよほど気になるだろう。たった一人の孫なのだ。

「ま、16歳なんてこれからじゃねえか? 心配するこたあねえだろ」
「いや、そういうことではないんじゃ」

 じゃあどういうことだ。お椀に入っていたスープはとっくに空になっていて手持無沙汰の中、ロウの低くしゃがれた声に耳を寄せる。これは流してはいけないような気がして。

「女の子やガールフレンド、ひいては恋というものは人生に彩りを与えるものじゃ。でも本当は、その対象は何だっていい。つらい使命を負っている孫が、少しでも気が楽になるものがあればそれでいい」

 イレブンは、おぬしといると本当に楽しそうなのが、見ていてよくわかるぞ。ありがとう、カミュ。
 
 まさかムフフな話題からこんな風に礼を言われるようなことになるとは思わず、ただただ面食らってしまった。

 ……これだからこの爺さんはちょっと苦手なんだ。

 イレブンと全然似ていないと最初は思っていたのに、こうしてまっすぐに礼を告げてくるところとか、こちらがどう受け取っていいかわからず右往左往しているのをにこにこしながら見つめてくるところとか、そんなところに血を感じる。悪いことではない、けれど、

「……別に、礼を言われるようなことなんてしてないぜ」
「ほっほ。では年寄りの戯言として流してくれればいい」

 カミュが流せないことを恐らく知っていて言ってるのだろうから、まったく、たまったものじゃない。




お題:キャンプ
181223発行短編集書き下ろしWEB再録

Clap

←Prev NEXT→
top


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -