胸に残る一番星 | ナノ

  ひとっぷろ浴びる


 ゆっくりと足から湯の中へ入っていき、肩まで浸かったところで思わず「ああーーー……」とうなり声が出てしまった。ベロニカやシルビアあたりが耳にしていたらおっさんくさいわよ、と眉をひそめられていたかもしれない。しかし今ここにはイレブンと自分の二人だけしかおらず、いつしかのように貸し切り状態だった。おかげで無防備にだらしなくリラックスできるものだ。
 少し湯が熱すぎるが、疲れた体にはちょうどいい。たまたま今日泊まるこの宿についていた大浴場に、イレブンが入りたいと言うので仕方なくついてきたが、たまにはいいものだな、とカミュは思った。

「もう、カミュ早いよ〜」
「ちゃんとかけ湯しろよ」
「うん」

 ようやく身体を洗い終えたらしいイレブンが寄ってきて、きっちり足から順々にかけ湯していき、それからカミュと同じく湯の中に身を沈めた。すると、「はあああ〜〜〜〜」と普段はめったに聞くことのない低い声がイレブンの口から漏れ出て、思わず噴き出す。

「くっ、くく、おまえ、その声、どこから出てるんだよ…」
「う、カミュだってさっきおじさんみたいな声出してたじゃないか…」
「…聞いてたのか」
「聞いてたよ!気持ちいいから仕方ないよっ」
「はは、そうだな」

 少し恥ずかしそうにしていたイレブンだったが、カミュにつられておかしそうに笑い出した。浴場に二人の笑い声が響く。ああ、気の置けない相棒と、のんびり風呂ってのはいいものだな。手ですくったお湯を顔にかける。

「は〜〜……僕、将来はこんな大きなお風呂がついたお家に住みたいな……」
「いいんじゃねえの?」
「そうしたら、カミュも呼ぶから入りに来てね」
「…そりゃあ楽しみだ」

 二人旅の頃はメラでお湯を作るのに迷走していたイレブンが、ずいぶんと大きく言うようになったものだなあと思う。というか、勇者さまの将来設計に何気なく自分の姿はあるのか、とカミュは何だかむず痒くなった。





181223発行短編集書き下ろしWEB再録

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