胸に残る一番星 | ナノ

  拝啓


 お父さま、お母さま。そちらはお変わりないでしょうか。
 ベロニカお姉さまと共にラムダの里を出て幾数日。ホムラの里で蒸し風呂に入ったり、お姉さまが魔物によって若返ってしまったりと、色々ありましたが、私たちはようやく勇者さまと出会うことが出来ました。
 勇者さまのお名前はイレブンさま。流れるようなサラサラヘアーと、どこか気品ある雰囲気を持つ方です。瞳に宿るあたたかな光に、お姉さまも私も一目で気づくことができました。私たちの使命とはいえ、勇者さまからしたら半ば押しかけのような形でついていくことになりましたが、優しく迎えてくださいました。ふしぎな鍛冶台というものをお持ちで、私たちの装備品を手ずから作ってくださったのです。「手元のレシピだとこれしか作れないけど、よかったら…」そう言って汗だくになりながらはねぼうしを手渡してきたイレブンさま。どういうお方なのか二人旅の間によくお話ししたものですが、想像よりもずっと素敵な方です。
 それから勇者さまはお一人ではなく、お友達もご一緒でした。珍しい青い髪をしたその方はカミュさま。勇者さまに向けている優しげなカオが印象的なお方で、私たちにも気を遣ってくださいます。小さくなられたお姉さまは魔力は満ち足りていても体力は落ちてしまっていて、道中がつらそうです。そんなときカミュさまが勇者さまと共に、日差しを遮るように私たちの隣を歩き影を作ってくださいました。強がって突っぱねようとするお姉さまも、「オレが勝手にやっているだけだ」と言い張られて何も言えないようでした。そのお心遣いは私としても大変嬉しいもので、勇者さま同様に優しいお方だと思いました。それに、
 
 
「悪いな、セーニャ…」
「いいえ、私が軽率でしたから…すみませんカミュさま、イレブンさま」
「ううん、僕もカミュも気にしてないよ」
「謝らなくていいわセーニャ、と言いたいところだけど、カミュにしては正論なのよね」
「ベロニカ、お前な…」

 サマディーへ向かう最中、小休憩していたときのこと。両親への手紙を綴っていたところ、何を書いているのかイレブンに聞かれ、お二人と出会ったことを報告しようかと思いまして、とセーニャは素直に告げた。するとカミュが何とも言いづらそうに、止めた方がいい、と制してきたのだった。曰く、お尋ね者の自分たちの現状や行き先が、デルカダールにバレてしまっては一大事である。そうならないためにはなるべく目立たずに行動したいし、手がかりになりかねない手紙は危険だ、と。カミュは決して責めるような口調ではなかったが、そこまで思い至らなかった自分が恥ずかしく、セーニャはうなだれてしまった。

「…お姉さまごめんなさい、この手紙燃やしていただけませんか?」
「あたしは、いいけど…」
「いやちょっと待て、別に燃やす必要はないだろ」

 ベロニカが指先から炎を出し、そこに手紙を差し入れようとすれば、またしてもカミュが止めてきた。

「え? でも…」
「いつかはラムダに向かうんだろ? だったらそのとき直接手渡せばいいんじゃねえか」
「……」

 何でもないようにそう言う彼に、姉妹一緒にぽかんとする横で、イレブンはうんうんと頷いている。

「そうだよ、せっかく書いたんだからさ」
「だよな。…って、何でお前はそんな得意げなんだ」
「へへ。カミュってこういうひとなんだよ、って思って」
「何だそりゃ」

 ふたりの会話を聞きながらセーニャはベロニカと顔を合わせる。ベロニカは肩を竦め、セーニャはにっこりと頷いた。
「それでは、そうさせていただきます。…お二人とも、ありがとうございます」
 カミュは少しばつが悪そうに、イレブンはやはり得意げな顔のまま笑った。
 
 
 …お二人のこれまでのいきさつを聞けば、私は、勇者さまのそばにカミュさまがいてくれてよかった、と心より思います。最初は慎重だったお姉さまも同意見です。
 勇者さま、そのお友達のカミュさま、私たち双子姉妹、どのような旅になるのか、これから楽しみです。心配しなくてもきっと大丈夫ですので、お父さまとお母さまもどうかお元気で。里の人たちや長老さまにもよろしくお願いします。

敬具




190123

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