胸に残る一番星 | ナノ

  宿の入り口で友情を叫ぶ


「ぼ、僕たち、友達じゃないの…っ?」
 たいそうショックを受けたイレブンは、わなわなと震えてしまった。


 起きたら隣にカミュはいなくて、部屋の外にいた宿の人によると、すでに一階で姉妹と共に待っているようだった。慌てて階段を降りる最中、ベロニカのよく通る声が耳に入った。

「先にハッキリさせておきたいんだけど、アンタとイレブンってどういう関係なの?」

 大きな杖をびしっと向けられて、カミュは腕を組みながら言葉に詰まっている様子だ。そういえばあの姉妹からしたら探していた勇者の隣にいる男は想定外のことだったのだろう。きちんと僕からも話そう、と思っていた矢先。

「あらお姉さま、お二人はお友達じゃないのですか?」
「いや…友達、ではねえかな…」

 その声は小さかったが、確かにイレブンは聞こえてしまった。そして思わず叫んでしまったのだった。

「い、イレブン…」
「カミュ…」

 ゆっくりと歩み寄るイレブンの視線に、カミュは気まずそうに目をそらしながら頭をかく。それがつまりはイレブンの問いかけに対する答えだった。ずがんと頭を殴られたようで、イレブンは思い切り俯いた。

「…ごめん、カミュ…」
「えっ、」
「僕、はそうだと思ってたけど…思い上がりだったね…」

 故郷の小さな村では村人全員が知り合いであり、老若男女入り混じった大きな家族のようなものだった。なのでイレブンとしては初めて男友達が出来た、とカミュに対して思っていた。

 正確な年齢は知らないが恐らくは自分より年上。旅慣れた様子でさまざまなことを教えてくれて、ここに来るまでの危機から何度も助けてくれたひと。知らないことはたくさんある、というよりは知っていることの方が少ないが、今のイレブンにはなくてはならない存在。

 まだまだ引っ張ってもらってばかりだが、いつかは彼の助けになれるようになりたいと、そんな友人関係を築きたい、と思っていたのだが。所詮は独りよがりだったのだろうか、とイレブンはたいへん落ち込んだ。

「ま、まてまてまてイレブン! 待て! 落ち着け!」
「アンタの方が落ち着きなさいよ…」
「イレブンさま、大丈夫ですか…?」

 呆れたようなベロニカと心配そうなセーニャの声に、別の羞恥がわいてくる。姉妹に格好つけたいわけではないが、早々にこんな情けない姿を晒してしまって申し訳ない。

「なあイレブン、聞いてくれ」
 しょんぼりとしたままのイレブンの肩をカミュが掴む。

「あー……、何つーか………あれだ」
「どれよ」
「どれでしょうか」
「…頼むからお前たちは口挟まないでくれ。あのな、イレブン」
「は、はい」

 正直いまは顔を合わせづらい、が珍しくカミュが焦ったような様子なので、素直に顔を上げた。お互い何とも言えない表情で見つめあい、しばしの沈黙、やがてカミュが口を開いた。

「…こういうのをわざわざ口にするのは野暮ってもんだが、…オレはお前のこと、…相棒だと思ってるんだが」
「…あいぼう…」

 その言葉を反芻する。「相棒」。友達以上に馴染みがないそれに、イレブンはすぐには頷けず、でも、と返す。

「カミュの相棒って、デクさんじゃないの…?」

 デルカダール上層で店を開いていた男の人。裏切り者かと思われていた彼はその実、裏でずっと活躍していたようだった。危険をおかしてでも、一人逃げずにアニキと慕うカミュが助かるように手を回していたと聞いて、イレブンは素直に感心したのだった。離れていても、どんな状況でもチカラになる。それが相棒というものだとしたら、自分にはその資格はあるのだろうか。

「デク…? いや、あいつは元相棒ってだけで、今はお前と旅してるんだから…」
「…でも僕は、君に助けてもらってばっかりなのに、相棒って呼べるのかな」
「…はあ」

 肩を掴んでいた手を離したカミュは、こぶしでイレブンの胸をたたく。痛くはないが、どこか重い気がして息を呑んだ。

「お前がいなきゃ切り抜けられなかったこともいっぱいあったろ。オレはけっこうお前を頼りにしてるんだぜ、相棒」

 ダメだったか?

 にやっと笑われて、頬が熱くなる。ふいに、デルカダール神殿でもそういったことを言われたことを思い出した。…そうだ、どうして弱気になってしまうのだろう。カミュはここに来るまで一度でも、自分を見下したことも突き放したことも軽んじたこともないのに。

「…ダメなわけないよ! 嬉しい!」
「…そりゃよかった。ってか、そんなにか…」
「うん!」

 少々照れくさそうにしているカミュに元気よくこたえる。相棒だと思ってくれていたことも、直接そう言われたことも、顔がゆるみきってしまうぐらいには嬉しくて。イレブンは、ここがどこだかということは完全に頭から抜け落ちていて、

「あたしたち、何を見せられてるのかしらね…」
「お二人はとても仲がいいお友達で、相棒なんですね!」
「はあ…。ねえちょっとアンタたち、そろそろ話進めてもいい?」
「あっ!? ご、ごめん!!」

 今にもメラを飛ばしかねないベロニカに睨まれることとなった。





190118

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