胸に残る一番星 | ナノ

  ロマンチックになれない彼らと彼女たち


 水面とともにゆらゆらと揺れるゴンドラは、落ち着かなさでいえば乗馬しているときに似ているかもしれない。慣れれば周りを見渡す余裕も出てきて、陽を受けてきらめく川の水も、下から眺めるこの街も、きれいだった。しかし。

「一緒にいるのがあんたってのがねえ」
「悪かったな」

 ちっとも悪くなさそうに言う青髪の男にベロニカはため息をつく。どうしてこうなったかといえば我らが勇者さまのせいである。
 
 
 外海へ向かう前に、船の整備のために大きなドックがあるダーハルーネへ一度向かいたいのだけど、とシルビアが申し出た。シルビア所有の船を借りているかたちの身としては意義はないが、いろいろ問題がある。勇者を追うデルカダール兵に捕まったことがあるかの地は、町の中にはまだ警備のためと兵士らが見張っていたはずだ。そんなところへのこのこやっていくわけにもいかない。そこで一度ルーラで確認しにいったところ、警備はすっかり手薄になってたので、これはいけるだろうと踏んで久々にダーハルーネへとやってきた。

 それから各々ばらけていたが、セーニャと共にスイーツを食べ終えた帰り道、何やら深刻そうな勇者さまとその相棒を発見した。もしや身バレしてしまったのか、とベロニカは杖を握りしめたが、わけを聞いて脱力した。さきほど通りすがりの見知らぬ男があまりに思いつめた顔をしていたので、声をかけたらあることを頼まれたと。

「…はあ? 初デートプランを練ってほしい? 何でそんなの引き受けちゃったのよ…」
「だって、もう何がいいのか全然わからなくなってきたから助けてって、必死にお願いされて断れなくて…」
「まあ、その方はよっぽど思いつめてらっしゃったのですね…」
「あんたは何してたのよ、カミュ」
「オレがちょっと目を離したスキだったんだよ……。イレブンとそいつの間に入ろうとしたら、じゃあ明日またここでって言って逃げやがった」
「はあ…」
「うう、ごめんね…」

 シルビアがいれば頼れたかもしれないが、恐らく今は忙しいだろう。そんなわけで、町の真ん中を流れる川を眺めつつ、四人であれこれ考えた。

「商店を見回って、海の男コンテスト出場! とか?」というイレブンの案は今はコンテストやってないからなあ、と却下され。
「スイーツ食べ歩きなんてどうでしょうか」というまだ食べ足りなそうなセーニャの案は、べただけどまあ悪くないのではないかと候補にし。
「海とか川とか一緒に見回ればいいんじゃないの」というベロニカの案はおまえが一番ひどいな……などとカミュに言われ喧嘩に発展しかけた。

「ていうか、何で誰一人ゴンドラをあげねえんだよ」
「「「あっ」」」

 橋の下、誰かが乗っているそれを指差したカミュに、そういえばそういうものがあったことを思い出した。初めてこの街に来たときはそんな場合ではなかったのですっかり忘れていたのだった。


 試しに乗りに行くか、という話になり、二手に分かれて今に至る。女手だけで漕ぐのはきつかろうということで男女一人ずつ。少し離れた先を行くゴンドラからは、楽しそうにはしゃいでいるイレブンとセーニャの声が聞こえてきた。微笑ましいような、あの二人で大丈夫なのかしら、と心配に思うような。

 ふと気づけば、カミュの方もベロニカと同じように視線をあちらに向けていた。

「ちょっと、気になるのはわかるけど気をつけてよ」
「…ああ、いや、何つーか」
「…なによ」
「あの二人、けっこう似合いじゃないか?」
「……」

 その言葉に、ベロニカは呆気にとられてしまった。おっとりコンビ、危なっかしいが気は合ってるようだしなあ、なんて言うカミュに、笑い飛ばしてやろうかどうか、本気で迷った。

「…何だよ。やっぱ勇者さまとはいえセーニャの相手にゃ不足か?」
「…違うわよ。ば――――か」

 そういうことではない。ので、思いっきり悪態をつくことにした。カミュはむっとしたが、それ以上は何も言わずに漕ぐだけだった。ベロニカも、口には出さないことにした。まだ仲間になったばかりの頃、イレブンも先ほどのカミュと同じことを言っていたこと。あの二人、お似合いだなあ≠ネんて。それもからかってるわけでもなく、大真面目に、揃って何なのだろう、この男たちは。


「カミュ〜! ベロニカ〜!」
 イレブンたちが追い付いて、ゴンドラが二つ並ぶ。「お姉さま〜!」とぶんぶん手を振られて、こんな近距離なのに、と嫌みでも何でもない笑みが零れた。鳥が近くまで来たとか、お魚が見えるとか、どこからかいいにおいがするとか、にこにことセーニャが話しているのを良かったわね、と相槌を打ちながら聞いていた。さて漕ぎ手の男たちはというと、

「そっちはどう?」
「…おう、別に何ともないぜ。そっちはどうだ? 楽しいか?」
「うん! けっこう腕の力いるね、これ…!」
「お前なら平気だろ、このぐらい」
「僕はいいけどあの男の人は大丈夫かな…」
「男を見せろって言っとけ」
「手厳しいなあ」

 と、これまた楽しそうである。漕いでもらっている身であまり文句はつけられないが、おしゃべりに夢中になってあらぬ方向へ行ったらどうしてくれようか。まったくお似合いなのはどちらの方か。うちのかわいい妹を挟むのは止めてほしいものだ、とベロニカはまた小さくため息をついた。

「お姉さま、疲れましたか?」
「そうね…」
「疲れたときは甘いものですよ! 先ほどはシルビアさまとマルティナさまの分のお土産を忘れてしまいましたから、買いに行きましょう!」
「…それ、あんたが食べたいだけでしょ」

 もう、しょうがないわね!
 
 以前男女二人ずつの旅なんてロマンチックだとシルビアは言っていたけれど、実情はこんなものである。それを誰より把握しているベロニカだが、いま自分が悪態をついた男と似たような表情をしていることには気づいていなかったのであった。




お題「初デート」「ロマンティック」
181216

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