愛を込めて
ルーラでクレイモランまで飛んで、それから町の中へと入る門へと向かうと、彼が突っ立っているのが見えた。まるであのときのようだなと遠い記憶がイレブンの頭をよぎったが、それよりも急いで歩く。抱えているものが大きいので今は走れないのだ。
「カミュ!ごめん、待った?」
「おう、イレブン」
別にそんな待っちゃいねえよと彼は言うが、イレブンの相棒であるところのこの男は一度も待たされたことに文句を言ったことがないし、本当かどうか確かめる術もないので聞き入れるしかない。
「そもそもオレがここまで呼んだわけだしな」
「そうだけどさ…」
集めるものが無事全て終えて、時間があればクレイモランに来てくれないか、と今朝カミュから話された。どういう理由があってなのかは聞かされていないし、教えてはくれなかった。結局何なのかと改めて尋ねようとしたら、カミュがまじまじとこちらを見つめていることに気付く。
「…思ってたよりでかいな、それ」
「…何だか、思ってたよりおっきくなっちゃった」
イレブンの腕の中には今、色とりどりの花束がある。それもどこかの花屋で買ってきたものではなく、摘んできたものの詰め合わせである。デルカダール、ソルティコ、バンデルフォンやユグノア、そしてラムダまで、仲間たちに会いに行きながら各国や各地方の花をもらってきた。
本日母の日、たくさんの苦労と心配をかけた母・ペルラに何か贈りたい、とイレブンは思った。がしかし何がいいものか、今や世界中どこだって行ける身としてはあまりに選択肢が膨大で逆にわからなくなってしまった。そこで相棒に相談を持ちかけた次第だ。カミュは、オレは母の日なんて縁がなかったが、お前がくれるものならお袋さんなんでも喜ぶと思うぜ、などと言いながらも真剣に悩んでくれた。イレブンは彼のそんなところが大好きだ。そうして二人であれこれ考えて、シンプルに花束なんてどうだ?というカミュの提案に乗ったのであった。
「いいんじゃねえか、華やかで」
「うん。ベロニカとセーニャには始祖の森までついてきてもらったし、マルティナからはお母さんが好きだったっていう花をもらったよ」
グレイグには故郷で見た覚えのある綺麗な花を教えてもらい、シルビアはソルティコの街いちばんの花屋を紹介してもらったことをカミュに話す。つくづくいい仲間に恵まれたものだ。
「良かったな。…ロウの爺さんのとこも行ってきたのか?」
「…うん。これと同じ花束を、一緒に供えてきた」
「そっか」
きっとエレノアも喜ぶぞ、と笑う祖父の方が嬉しそうで、胸が締め付けられた。同時に、やはり感謝の気持ちは直接、めいいっぱい伝えられたらと、伝えたいと、ペルラの顔を浮かべながらイレブンは強く思ったのだった。
「…それで、カミュはどうしたの?」
「あー……うちは、採れそうな花なんてねえからな」
代わりにこいつだ、とカミュは持っていた袋を差し出した。
「ひざ掛け用のブランケットだ。まあ、こっちと違ってイシはあったかいから必要ないかもしれねえけど」
「えっ、いいの?袋からして高価そうだけど…」
「一応、上物だぜ。クレイモラン産のな」
オレも何かしたかったんだよ、と少し照れくさそうに言うカミュに、じわじわ込み上げてくるものがあり、花束を抱えていなければ飛びついていたかもしれない。
「すごく嬉しいよ!ありがとう、カミュ!」
「ああ…お袋さんには、前にマヤと一緒にご馳走になったしな。そのお礼も兼ねてってことだ。ちゃんと渡してくれよな」
「…ううん、やだ」
「はっ?」
イレブンの返答に予想だにしてなかったのだろう、珍しく大きく目を見開く姿が少しだけおかしくて、悪戯っぽく笑った。
「だって僕、こんな大きな花束抱えてるんだよ?これ以上持ちきれないよ」
「マジか」
「うん、だからそれは、カミュが直接お母さんに渡して。一緒に行こう」
「…マジか」
「マジだよ」
この花束は仲間たちから手助けを得て集められた、自分からのものだ。そしてその贈り物はカミュ本人からのものだ。直接手渡した方がペルラもきっと、いや絶対喜ぶだろう。
「…仕方ねえ。じゃあ、行くか」
「うん!」
『クエスト:相棒とともに母・ペルラに感謝の気持ちを伝えに行こう』
――CLEAR!
180514
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