胸に残る一番星 | ナノ

  元情報屋の娘の憂鬱


 本当なら今は楽しいピクニック中だったのに、とルコは大きくため息をつく。

 一緒に行く予定だった友達が、風邪を引いてしまったのだから仕方ないけれど。ルコが出かけるというからふたりきりでデートの計画を立てていたパパとママに、遠慮せずに行って来ていいよと言ったのも自分だけれど。家で一人留守番していてもつまらないし、とにかくヒマなのである。

 それで何とはなしに外でぶらぶらしていたら、自分と少し似た色の髪をした青年を見かけた。何やらあたりをキョロキョロしながら困っているようで、声をかけた。

「どうしたの、お兄ちゃん」
「……ああ、ルコか。実はな……」

 青年―カミュは、持っていたバスケットをルコに見せてくれた。中にはいっぱいの果物、そこに添えられたメッセージカードには、名前が書かれている。

「このじいさんにこいつを届けてほしいとぺルラさんに頼まれたんだが、どこの家なのかわからなくてな……」
「あ、この人のおうちなら知ってるよ! ルコが案内してあげる!」
「おっマジか! 助かるぜ!」

 ここは小さな村だが、住んで間もないカミュにはまだわからないのだろう。目的地へと向かって歩き始めたルコの後ろを歩くカミュは、いかにも助かったというような顔をしていて、何だか得意げになる。

 思えばホムラの里で初めて出会ったときは、自分の方が迷子だったのに、あのとき助けてくれたお兄さんを、今はこうして案内できることがルコは何だかとても誇らしかった。

「ふふふ」
「どうしたんだ?」
「ううん、この村ならルコの方がお兄ちゃんよりせんぱいなんだなって」
「ははっ、確かにそうだな。頼んだぜ、ルコ先輩」
「うん!」

 例えば今は迷子になったところで、ほとんど顔見知りになった村人たちの誰かが助けてくれるだろう。そもそも父親が不運に巻き込まれてふらっといなくなることもなくなったので、迷子になることもない。

 父親との二人旅もあれはあれで楽しかったけれど、この村で暮らし始めた今は何とも穏やかで平和で。新しくできた友達がいて、母親だって出来て、幸せだった。刺激がないことを少し退屈に思っていたところもあるけれど。

「……ありがとう、お兄ちゃん」
「……んん? 何がだ?」
「なんでもないよ」

 大切なことを思い出させてくれてありがとう。
 突然礼を言われて困惑する青年に、少女はふふっと笑った。





21年12月再録本書き下ろしより。

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