胸に残る一番星 | ナノ

  旅の果てに


※ こちらはフォロワーのたにまさんの作品の3次創作です。
元となる素敵作品をご覧になってからどうぞ。
しあわせごはん旅@ / A




「ん〜〜カミュの握り飯、おいしいよ!」
「そうか? へへ、よかった」

 世界各地のご飯を食べに行こうという旅も一旦区切りをつけて、イシの村の自宅へと戻ってきて数日が経つ。今やずいぶんと献立のレパートリーも増えたのだから、しばらくマンネリ化することもないだろう。

 そんなわけで今夜は、ホムラの酒場で出された料理を再現してみた……のだが。

「お前のこれも、うまいぜ?」
「……ほんと? お世辞じゃない?」
「ああ、飲んでみなって」
「……飲むものじゃなかったんだけどなあ」

 イレブンが作ってみた茶碗蒸しはなぜか上手く固まらず、ただの卵スープになってしまった。しかし闇鍋のときのように好き勝手具材を入れたわけではないのだから、これも十分にうまいとカミュは思う。

 しょぼくれていたイレブンだったが、ぐずぐずの茶碗蒸しもといスープをそっと口に含めば、「あ、意外とおいしい……」と顔を綻ばせた。

「な、だから気にするなって」
「でも、カミュが作ったのはちゃんとしてるのに……」
「オレのだって完全には再現できてないだろ。たけのこ用意できなかったし」
「ええ、十分おいしいよ!!」
「ん、だからそれでいいんだよ」

 これまで食べてきたものの完全再現を目指してるわけじゃないし、料理人になりたいわけでもない。ふたりでうまいものをつつきたいだけなのだから。

「うう……かみゅがやさしい……」
「だめなのか?」
「だめじゃないです……でも、次はちゃんと作れるようがんばるね!」
「おう」

 カミュの言外の気持ちは伝わったのか、イレブンは気を取り直したようで、もりもり食べ始めた。たくさん作った握り飯が勢いよく吸い込まれる様には思わず笑ってしまうが、よかった。うまそうに食べるその姿が、カミュによって何よりだ。


「……ねえ、カミュ」
「ん?」
「ボクと一緒にいてくれて、ありがとう」
「な、何だよいきなり」

 突然まっすぐな瞳を向けられて、ちびちびと飲んでいた酒を吹き出しそうになる。いまそんな雰囲気じゃなかったろ、絶対。知らない間にイレブンも飲んでて酔っ払ったのだろうか。

「何かね、食べるのは簡単だけど、作るのはやっぱり難しいなって。旅しててご馳走になることも多かったけど、本当に有り難かったなあって」
「……そうだな」

 対価も求めずに、どうか食べていってほしいという人たちが世界中にいた。それはそれだけこの勇者さまが人助けをしてきて、彼らに感謝されているからだ。それでも自分たちにご飯を振舞ってくれることは決して当然ではない、と思うイレブンは本当に殊勝だ。

 さておき、なぜその流れで自分まで感謝されているのかはよくわからない。疑問符を浮かべるカミュにイレブンはゆっくりと告げる。

「うん。それで、君と一緒に暮らしてて、一緒にご飯作って、一緒に食べることも、当たり前のことじゃないよなあって改めて思ったから」
「……」
「だから、ありがとう」
「…………」

 そんなことは、まったく今さらなことなのに、もらった想いがじんわりと胸にしみる。世界を救う旅も、ただうまいものを食べに行くだけの旅も終えて、もうふたり一緒にいないことが不自然なまでになったのに。そんな風に言われたら、もう。

「……そんなの、……も、……」
「え?」
「……オレも、おまえとおなじこと、思ってるよ……」

 顔も、胸も熱い。ああせめてもう少しだけでも酒が入っていたらよかったのにな。けれど、いつだってハッキリと伝えてくる相棒に、自分もきちんと返したい。イレブンと同じ気持ちであることを。自分の家で、家族と一緒に、あたたかな食事をとれることに、いつだってしあわせを感じていることを。

「ありがとな、イレブン」
「……かみゅ〜〜〜!!」

 立ち上がったイレブンが、こちらに寄ってきたかと思うとぎゅうぎゅうに抱きしめられた。
 嬉しい、ありがとう、かみゅだいすき。
 ――やっぱり恥ずかしくなって何も返せなくなった言葉の代わりに、カミュはそっとその背中に腕を回した。




220322

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