胸に残る一番星 | ナノ

  北から目線になれない相棒


「おーいイレブン、メシに行くんじゃなかったのか」
「……寒すぎて動きたくない……」

 宿屋に来て早々に布団の中へ潜り込んだ相棒に呼びかけると、弱々しい声が返ってきた。元勇者さまとは思えぬか細さ。そして今朝の自宅とまったく同じ光景だ。

「お前がナギムナーならあったかそうって言ったから来たのに」
「むしろイシより寒くないここ!?」

 一段と冷える今日、暖を求めて南にあるこの村へと飛び立ったのだが、想像してたのと違ったらしい。どうして……と毛布に包まりながらイレブンが震えている。

「ま、海辺だからなあ。潮風が強い分、イシより涼しいよな」
「涼しいんだ……」

 クレイモラン育ちのカミュとしては、イシの村は冬だってずいぶんあたたかいし、今のナギムナーとてまあまあ涼しいな、ぐらいだ。寒がるイレブンに同意できない。かといって別に情けないとも思わない。むしろ世界を救う旅をしている間は、こんな風に寒いから毛布から出たくないと駄々をこねる勇者さまなど見られなかったので、微笑ましいような気持ちになる。

「どうする? 来たばっかだけど帰るか?」
「えっ」
「ん?」
「……ううん、ごめんね。久々にここの料理食べたいって、カミュ言ってたのに……よし! 行こう!」

 勢いよく起き上がったイレブンが、ぎゅっと拳を握る。まるでこれから戦闘に行くかのような気合ぶりが可笑しい。カミュも立ち上がってその背中を叩いた。

「じゃ、行こうぜ」


 宿屋を出ると、冷たい風が全身を包み込んだ。潮のにおいに少し懐かしさを感じてるカミュの横で、イレブンはまたぶるぶると震えていた。早いとこどこかの飯屋に駆け込んだ方が良さそうだな、と思いながら歩く。

「そういや、この宿の周辺にうまい店があるってキナイが言ってたな」
「ええっ! カミュ、キナイさんと交流あったの!?」
「いや直接じゃなくて、リーズレットから聞いたんだよ」

 クレイモランで酒場を営むリーズレットの店に、キナイはたまにふらっとやってくるらしい。海の魔物も少なくなってからはナギムナーにも旅人が訪れることが増え、旅人向けの店も増えたんだとか。という話を、いつだかに帰省したときに、リーズレットから又聞きしたわけだ。

「けっこう前になるし、詳しく聞いたわけじゃないから曖昧だけどな」
「じゃあせっかくだから、キナイさんに聞いてこようよ」
「ああ、闇雲に探すよりそっちのが早いか」
「カミュ好みのお店だといいね」
「そうだな。お前があったまるもんもあればいいな」

 好みと言えば、あの酒場で飲んだものはどれも上質で美味かったな、ということもついでに思い出した。が、それを言ったらこいつは無理してでもクレイモランに行こうとか言い出しかねないので、黙っておくことにした。せめてもう少しあたたかくなってから誘うとしようか。




220220

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