胸に残る一番星 | ナノ

  Butterfly


 グロッタの町を出ると、妙な解放感があった。色々とあったが何とか武闘大会が終わったから、というのと、久々に頬を撫でるやさしい風を感じたから、というのもあるからかもしれない。

 そして同じく久しぶりのキャンプに心が躍った。それ自体よりも、鍛冶が出来る! ということに。今は彼の地であの老人たちが待っていることを考えれば、そんな場合ではないが。ごめんみんな、ちょっとだけ、いいかな……と珍しくわがままを言う勇者に、怒る仲間はいなかった。ありがたいなあ、と思う。


 
 さて、グロッタで手に入れたレシピを元に出来上がったのは、マスクだった。何だか武闘大会で、あの女の人がつけていたものと似てる気がする。きれいだ。

「お、新しい装備か? 何かそれ、あの武闘家の姉ちゃんがつけてたやつに似てるな」

 ひょいと覗き込んできたカミュが、自分の思考をなぞったかのように言ってくるから笑ってしまう。ただしカミュの方は彼女に負けた記憶があるせいか、ちょっと苦々しい顔だ。

「そういえば、君がつけてた仮面って、これと比べても地味だったよね」
「そりゃ、こんな派手なもんつけられねえよ」

 大会が始まる前、ずらりと用意された大量の仮面の中からイレブンは適当に手に取ったのだが、カミュはなるべく目立たないものを選んだようだった。彼らしいなあ、と思うと同時にいたずら心も少し湧く。

「ね、これつけてみない?」
「……遠慮しとく」
「せっかく僕が作ったのに」
「……う」

 カミュは基本的に、イレブンが作ったものを素直に喜んで受け取る男だ。出来栄えがよくなかったものですら褒めてくれる。それはとても嬉しく思っているけれど、さすがに趣味でないものをあげたらどうするんだろう。うーん……と困ったように唸るすがたがおかしい。

「似合うと思うのになあ」
「よせやい」
「ふふ、ごめんね、つけたくないならいいよ」

 レシピを見るに、このマスクは麻痺ガードに加え攻撃魔力が上がる効果もあるらしい。ていってもベロニカもつけてくれなそうだから、お蔵入りかなあ。

「……はあ。まったく、からかうなよな、相棒」
「似合うと思ったのは本当なんだけどな」

 それじゃあお詫びにこれをどうぞ。もう一つのレシピから作った短剣を、カミュに手渡す。

「なんだ?」
「えーっと、バタフライダガー、だって」

 今まで彼が使っていたどくがのナイフと見た目はそう変わらないが、性能は上がっているはずだ。受け取ったカミュは見定めるように、手の中で転がしている。

「うん、いいじゃねえか!」
「……でもごめん。これたぶん、グロッタの洞窟で拾ったものの方が、攻撃力は高いかも」
「そうなのか。ま、オレはこれを使わせてもらうぜ」
「いいの?」
「当然だろ? お前が作ったものなんだから」

 にいっと笑って、短剣を掲げるカミュに、頬が熱くなる。せっかく昨晩のお礼も兼ねて作り出したけど、気に入らなかったらどうしようとか、拾ったナイフの方がいいとか言われたらどうしよう、……なんて、ちっとも思っていなかった。イレブンの期待通りに、当然のように受け取ってくれるこの相棒のことが、つくづく大好きだ。

「えへへ、……ありがとう、カミュ」
「礼を言うのはこっちだろ。ありがとな、イレブン」
「うん!」
「ちょっとあんたたちー! じゃれあってる暇があるならそろそろ行くわよ!」
「あ、はーい!」

 さて、だいぶ気晴らしも出来たので、そろそろユグノアへと向かわねばならない。何が待ち受けているのか、何を知ることになるのか、わからなくても。


 ――相棒と仲間たちがいるからきっと大丈夫だ。




お題『蝶』
○○を使わない140字小説お題
210111

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