がんばりやさん
イレブンは鍛治が好きだ。
単純に何かを作るのは気晴らしにもなるし、もしかしたら使えるかもと拾って取っておいた些細なモノが素材として活躍すれば嬉しいし、街中でふいにレシピを発見すれば心が躍るし、早く作りたくてキャンプ場までつい走りたくなってしまう。
そうして拵えた装備品を、共に旅する仲間たちにあげるのも好きだった。みんなが喜んでくれたら、戦闘で役立ってもらえたら、魔物からの攻撃や自然の猛威からその身を守ることが出来たなら。そんな願いと祈りを込めて鍛治台と向き合う時間は、女神像に拝むようなものなのかもしれない。
まだまだ頼りない勇者《イレブン》を信じてくれる仲間たちのことを守りたいと思うから、今日も鍛治用のハンマーを握るのだった。
……のだが。
「よお相棒、今日はこいつで頼むぜ」
夕餉も食べ終えて寝るまでの間、いつものように鍛治をしようとしたときだった。こちらに寄ってきたカミュが、持っていた布袋をどしんと地面に置き、ついで腰を下ろしたのだからイレブンは驚いた。
「……え? これ、素材……?」
「ああ、お前に作ってほしいものがあってな。集めてきたぜ、素材」
「ええっ!?」
普段ろくに自分の欲求を伝えてこないというか、勇者や仲間たちを当たり前のように優先するようなこの相棒が、自分に作ってほしいものがあるだなんて、にわかには信じられない。けれど、こうしてわざわざ素材まで集めてきたというなら本気なのだろう。だとしたら、断る理由なんて何一つもない。
「……わかった。頑張って作るね」
「おいおい話が早いな、オレはまだ何を頼むかも言ってないのに」
「君の頼みだもの。どんなものだって作るよ」
武器でも防具でもアクセサリーでも、例え作り方がわからなくても挑もうじゃないか。常々感謝してばかりの相棒に少しでもお返しが出来るなら、イレブンは多少の無茶だってするつもりだ。
「言ったな?」
珍しく強気な発言をする勇者に、カミュはというと、まるで言質はとったぞ、とでもいうようににやりと笑った。それから袋から素材を取り出して、イレブンに手渡す。鉱石が多い気がするが、防具なのだろうか。
「――を作ってくれ」
「……え?」
聞き間違えでなければそれは、やはり防具である、が、カミュには装備出来ないものだ。彼どころか、他の仲間たちだって出来ない。ただ一人、イレブンを除けば。
「……どういうこと?」
確か、いつだかにレシピを覚えたものの、自分しか使えないものだったので、後回しにしていたものだ。どうして、カミュがこれを。考えてみて、一瞬浮かんだ推測に首を振る。まさか。
「そのまさかだよ」
お前さ、ロウのじいさんとマルティナが仲間になってから、……いや、違うな。その鍛治台をやったときから、ずっと人のために何か作ってるだろ。それはいい。火力は高くても守備力がちっと足りねえメンバーが多いからな、まあオレも人のことは言えないが。……だから、それを補うために装備品をガンガン作るのは、いいんだよ。ただそれで自分のことは後回しにしすぎてないか、勇者さま。仲間も増えてきて、余計に。
「……う」
「……だからな、どうしたらいいものか、あいつらと話し合ったんだよ」
「いつの間に……」
「お前が寝てる間にだな」
「……それで、これを……?」
「ああ。オレが頼む形なら、お前も断れないだろ?」
だから観念して自分用の防具を作るんだな。
そう言われてイレブンはまた呻く。ぐさぐさと言葉が刺さるのは、ずばりと言い当てられたからで。しかしカミュは決して怒ってはなく、説教をしたいわけでもないのだろうと感じるからこそ、イレブンに突き刺さった。そんな風にみんなから心配されていたなんて、知らなかった。
「言っとくが素材もみんなで集めたからな」
「うう」
「あと、お前がみんなを思って作ってるのはわかっているし、あいつらだって喜んでるんだ。だから自分のことも考えろって言いづれえんだよ」
「ううう」
ふと気づけば、少し離れた場所からみんなの視線を感じた。暗い夜でもたき火によってよくわかる、ベロニカもセーニャもシルビアも、ロウやマルティナも、目の前の相棒も含めて、おんなじ顔でイレブンを見ていた。少し呆れたような、でも仕方ないなあというような親しみとやさしさ。まるで失ってしまった家族と故郷のようで、何だか泣きそうになる。
「……ごめんなさい」
「……謝ってほしいわけじゃないのも、わかるだろ?」
「……うん、でも、……ううん。……ありがとう」
イレブンが絞り出すような声でそう言えば、お礼は形にして返してもらうぜ、なんておどけた声が返ってきて、また堪らなくなった。
イレブンは、鍛治が好きだ。
作るのは一人でだけど、相棒と仲間たちが寄り添ってくれるのを感じるから、ちっとも孤独じゃないのだ。
200923
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