胸に残る一番星 | ナノ

  永遠の絆


「は〜〜楽しかった!」
「楽しかったなあ」

 自宅に帰ってきて、ふたりしてそのままベッドへ直行する。


 今夜は年越しということで、イシの村全体で宴が行われた。とはいっても、各家から料理を持ち寄り、お酒で乾杯し、酔った村人同士わあわあ騒いで歌ったり踊ったりする、とてもささいなものだ。たくさんの国や町で煌びやかなパーティーにお呼ばれした勇者とその相棒からしたら、見劣りする……なんてことは、決してなかった。カミュはペルラと共に作った料理を提供し、村長から注がれたお酒を一緒に飲んで笑い、それからせがまれて仕方なく、しかしキレキレのダンスを披露していた。その光景を見ながらカミュさんってやっぱり気さくな人ねえと笑うエマと、カミュにいちゃんダンスもかっこいなー! とはしゃぐマノロに、そうでしょうそうでしょうとイレブンは一人したり顔をしていた。


 お腹も心もいっぱいに満たされて、心地よい疲労感に包まれている。着替えもお風呂も明日でいいだろう。今はこのまま気持ちよく眠って、気持ちよく新年を迎えたい。楽しかったなあと思い出しながら、隣のベッドで自分と同じように脱力している相棒と笑い合う。

「デクさんの腹踊りも面白かったな〜」
「オレの言った通りだろ? 呼び寄せて正解だったな」
「うん、最高だった!」
「ま、踊ってるだけならよかったんだがな……」

 村の復興を終えてデルカダールの自宅へと帰ったデクだったが、よかったら今夜の宴に来ないかとカミュが誘ったのだった。あいつが来たらきっと盛り上がるぜと言った通りにデクは意気揚々と歌い踊り、更にはカミュの武勇伝など語り上げ場を沸かせていた。それもたいへん興味深かったがしかし、自分とて相棒について語れることはたくさんある! とイレブンがデクに続こうとして、勘弁してくれ、と恥ずかしい呪いにかかっていたカミュに止められたのだった。

「僕だって負けられなかったのに〜」
「なに張り合ってんだよ。ただでさえデクが変なこと言うせいで、マヤに爆笑されちまったのに」
「ふふ、マヤちゃんも楽しそうだったねえ」

 カミュが呼び寄せたもう一人の人物である彼の妹は、何だよしけた祭りだなあなんて言いながらペルラの手伝いをしたり、ジュースが入った杯を片手に宴を見て回っていた。すっかり村に溶け込んだ兄に対し、しばらく見ない間にずいぶんふぬけたツラになりやがって、と辛辣だったけれど、こぼれる笑みは隠しきれていなかった。彼女は今夜はペルラのところに泊まる予定だ。カミュに対してもそうだが、マヤに対してもあたたかく接してくれる母にはイレブンは頭が上がらないし、嬉しいなあ、と思う。

「やっぱりみんなも呼びたかったな……元気かなあ……」
「そうだな……ま、あいつらもどこかで元気でやってるだろ。何なら明日は、新年の挨拶巡りとでも行くとするか?」
「挨拶巡り! えっ、いいなあそれ、行こう行こう!」
「んじゃ、そうするか!」

 年末はゆっくりしたいかもしれないと、遠慮して呼べなかった仲間たちに会いに行く。突然の自分たちの来訪に驚くだろうか、呆れるだろうか、喜ぶだろうか。考えただけでわくわくしてきて、疲れているはずなのに眠気も吹き飛びそうだ。

「そういや、明日から新年なんだよな……」
「えっどうしたのカミュ、今日の宴は年越し祝いだよ?」
「わかってるさ。でも何か、全然そんな感じしねえなって。すげえ騒いだせいかな」
「……そうかもね。実感なくても今年も終わっちゃうんだね……いろいろあったね」
「そうだな、今年もいろいろありすぎたな……」

 思い返せば濃密な一年だった。イレブンはふと、もたれこんでいた枕から腕を離し、ぐるっと寝返って隣を向く。なぜだかカミュも同じように同じタイミングでこちらを向いたので、自然と目が合った。彼の妹曰くはふぬけた、彼の元相棒曰くは幸せそうな、その顔を見つめるたびにイレブンは胸がいっぱいになる。旅をしているときだって日がな気を張っていたわけではないけれど、それでもここまでゆるんだ様子を見せることのなかった相棒のいまのすがたに、僕がどれだけ感動しているのかなんて、聡い君でもわからないだろうな。
 
「……僕覚えてるよ、今年のいちばんさいしょ」
「ん? さいしょ?」
「ほら、僕が新年早々寝込んでたから、カミュが大吉のおみくじ盗んできてやろうかなんて言ってたじゃない」
「ああ、そんなこともあったな」
「あのときも思ったけどさ、わざわざ大吉を盗んでくる必要なんてないし、ぶんしんで増やさなくても、もう充分だよ」

 悪魔の子などと呼ばれ追われていたときも、勇者として戦ってきた長い長い道のりも、ただの村人になった今に至るまで、そしてこれからも隣にいてくれて、本当にありがとう。

「……そりゃ、光栄だなあ。でもそれは、オレのセリフなんだぜ。お前と過ごしていて、退屈するヒマなんか少しもなかった。………ありがとな、イレブン」
「カミュ……」
「お前となら、これからも先も楽しくやっていけるだろうな。だから来年も、よろしく頼むぜ! 相棒!」
「……うん……! よろしく、相棒!」

 あの日のように、こつんと拳を合わせて、こころをつなげる。これからも、つなげていく。来年もどうか平和な世界で、大切な人たちが幸せで満ちていて、相棒と笑い合えてますように。




191231

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