胸に残る一番星 | ナノ

  とある兵士の独白


 立ちすくむ囚人どもににじり寄る。切り立った崖の上、もはや逃げ場などどこにもない。てこずったがようやく捕まえられる、そう思った矢先だった。

「おいキサマら! 何をするつもりだ!?」

 ーー私は情けなくも、丸腰の囚人相手に怯んでしまった。この期に及んで何か企んでいるように見えたからではない。 奴らの眼が、死んでいなかったからだ。歯を食いしばりながらこちらを睨みつけていた眼差しがふっと解け、ゆるく笑みを浮かべてすらいる。追い詰められた囚人の目つきでは到底、ない。ふたり揃って強い意志をたたえた瞳が、まるで煌めいているように感じて息を呑んだ。

 そうして抜けるような青空へと飛び込んでいった彼らのすがたを、今でも忘れられずにいる。我々が歴史の幕開けの観測者となったことを知るのは、それからずっとあとの話だ。




180305

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