君だけの純情スカート
とんとんとん、と小気味良く音を立てながらイレブンが鍛冶をする様子は、いつもと同じ。違うのはここがキャンプ場ではなく、メダル女学園の一室であるということ。作っているのは武器防具などではなく、演劇で使う物だということだ。
なんやかんやあってこの学園の、年に一度の文化祭で演劇を行うことになった。それはいいのだが、元から用意されていたセーラー服は少しだけサイズが合わなくて、イレブンに打ち直してもらっている最中だった。
「悪いな、イレブン」
「ううん、お安い御用だよ。それよりカミュは、練習行かないの?」
「あー、まあな。もうちっとだけ台本頭に入れようと思ってな」
他の面々はすでに別室で練習を行っているのだが、カミュは色々あって、ここにいる。鍛冶をするイレブンから少し離れたところに椅子に座って、台本に目を通していた。
「あ、なら鍛冶の音うるさくない? 大丈夫?」
「いや、平気だ。お前の方こそ、気が散るようならどっか行くぜ」
むしろこの音を聞いていたら落ち着くぐらいだ。
「まさか。むしろカミュがいてくれた方がいいよ。これはしっぱいできないし」
「…そうか」
あまり時間は残されていないので、イレブンはいま、急ピッチで仕立てているのだ。衣装だけではなく他にも小物等も作っていて疲れているだろうに、集中力を途切れさせることなく頑張っていて、見上げたものだ。
学園の生徒さんたちにはお世話になっているし、見に来た人たちにがっかりさせないようにしないとね! と奮闘するイレブンは勇者というよりは職人のようで、こいつのこういうところを本当に尊敬するんだよな、とカミュはしみじみするのであった。
さて自分も頑張らねば、と再び台本を読む。話の流れはともかく、先ほど読んでいてどうにも引っかかるところがあって、再読すればまた何とも言えない気持ちになる。自分の演じる役柄は、恋い焦がれながら、相手に向かって懸命に手を伸ばす。しかしそれは届かずに胸を押さえることしか出来ないのだ。状況はまるで違えど、カミュにも身に覚えがある。脳裏をよぎるのはあの日の妹のすがたで、こんなときだというのにちっとも集中できずにいた。これでは他の皆の足を引っ張るだけだろう。この演劇―『愛羅武勇が聞こえない』の主役はマルティナたちであるから、自分がそんなに気負う必要はないのかもしれないけれど。
「必死に伸ばしても手が届かないなんて、オレらしい役なのかもな」
ついぽつりと零れた声は、何を言ってるんだオレは、まあ鍛冶の音にかき消されるだろう、とそう思っていたのに。
「そんなことないでしょ。僕の手はとってくれたじゃないか」
手を止めることなく、振り返ることもなく、イレブンがそんなことを言うものだから、カミュは台本を落としてしまいそうになった。だってそんな、どちらかというと、お前の方がオレの手を掴んだんじゃないか。
飲み込めずに黙っていれば、イレブンは「よしっ、だいせいこうだ!」と声を上げて、こちらに向かってきた。
「カミュは、ちゃんとつかみ取れる人だよ」
だから大丈夫、と勇者さまは無邪気に笑ってセーラー服を手渡してくる。言われたことと持っているものが、それはもう全然釣り合っていなくて、カミュは喜びとかそういったものよりもいっそ笑いがこみ上げてきてしまった。
「…はは、ありがとな」
渡されたセーラー服をぎゅっと掴む。そうだな、いつかお前が言うように、もしも今度こそつかみ取ることが出来たならば。そのときは、あいつにこれを着させられたらと、思う。
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