まだ誰もが寝ているであろう午前4時半。作戦を決行するために少女は一人ベットから身を起こした。まだ眠いが愛する彼の事なのだから眠いも何も関係ない。
制服に着替えて鏡の前で髪をゴールデンポイントで結び、相棒であるレンジファインダーカメラの命名ファイちゃんを首からかけた。
いつも寝過ごしてしまうルームメイトを起こさぬようそっとドアを開けた。何をしても起きないような人だからそんな気遣いはいらないことに気づいて部屋を出た。
「まずは第一ポイント通過です」
木製の階段を出来る限り音を立てないように降りる。降りると目の前に寮長が立っていたりすることはありえるからだ。
階段を降り終えるとロビーはしんとしていて人影は一切無かった。嬉しくて口角が上がったが油断するにはまだ早いと神経を尖らせて自分の靴箱から下靴を出した。
「第二ポイントも無事通過です…!」
鍵をそっとあけてダック荘を出ると少女はダック荘の裏に回った。裏は男子寮の窓際に当たるのだ。
あまり手入れの行き届いていない草村を歩き、お目当ての窓についた。
「はあ…部屋が一階だったことにミコは感謝しなくてはですね…!」
愛しの彼の寝顔を堪能しようとファイちゃんで存分に連写しようと窓に顔を近づけた。
ガッと鈍い音がして窓が開かれてしまった。顔に勢い良く窓が突撃してきて少女は震えながら顔を押さえた。
「変質者かと思ったらストーカーだった…」
「タダシさん酷いです!!!女の子に暴力はいけませんよ!!」
窓から気だるげな少年が少女を冷たい目で見た。名は吹野タダシ、ジェノック第五小隊に所属している。
「タダシさん退いてください!ミコのカイトさんの無防備な寝顔を激写作戦を阻止しないでください!!」
「知ってる?盗撮は犯罪だよ」
それくらい知ってるに決まってます馬鹿にしてるんですか犯罪だとわかっていても行いたくなるカイトさんの美貌が犯罪なんじゃないでしょうかいいから退けよ無口、なんて脳内でべらべらと愚痴を溢しているこの少女は奥ミコト。
正式なLBX大会で3回優勝した者だけが入学できるLBXの聖地と呼ばれるLBXの専門学校、神威大門統合学園。奥ミコトはその学園の二年五組ジェノック第三小隊に所属している。
「ミコ、頑張って早起きしたんですから早起きは三文の得ですよ!!」
「うるさい寝かせて」
いきなり現れたタダシではない人物に突き飛ばされ尻餅をついた。窓が勢い良く閉められてカーテンまで閉められた。
「カ………カイトさんがみつあみをほどいてました…!」
先程ミコトを突き飛ばしたのが彼女が愛する同じく二年五組の、ジェノック第五小隊隊長風陣カイト。容姿は美形とも言えるが皮肉屋でナルシストでかなり性格が悪い。はっきり言ってクズだ。
何か感覚がズレているのかミコトは入学当初から彼に惚れていてストーカー行為を続けている。そしてついた名はストーキングのミコトだ。
「カイトさんの無防備な寝顔を激写作戦は阻止されちゃいましたが、眠そうにしてみつあみをほどいたカイトさんが見れましたし…!」
カイトに突き飛ばされた事に有り難みを感じながらミコトはスカートを払った。決してMではない。
ミコトはスキップで部屋に戻っていった。
window a Good morning
(窓からおはようございます)