韻の言には徐々に熱が篭り、身振り手振りが加わる。

「乕は存じておられるやも知れぬが、冷酷無慈悲で有名。貴殿ら異民族の人間は殲滅される事になろう。魁が盾となっている。我々魁が全力で戦えねば、両者の未来は昏い」

 ふっと黎安は片頬だけで笑った。

「脅しか。私達が乕の奴らに負けるとでも」

「敵を知らんからそのように余裕でいられるのだ。私は幾度となく乕と戦った……その強靭さをよく知っている」

 黎安の表情が曇り、右手を上げる。すると背後から二人の気配が消えていた。
 少しだけ、韻の袖を引っ張る盈の力が弱まった気がする。

「我々も、ただ単純に乱を起こすなと言うだけではない。何故貴方達が乱を起こすのかは解っている……その理由を排除するのが条件だ」

 燮の一般市民に比べると、異民族に課せられた税は重い。
 収める頻度、割合が悪い為であるのだが、そもそも燮の国民でもない人間から税を取り立てる意味は無い。
 自由を認めてやれば、それで良いのだ。
 それが自由民族に対する最大の対価ではないだろうか。

「さて、どうしようかね……」

 黎安は腕を組み、大きな溜息を吐いた。
 ゆったりとした服を羽織っているが、それでも二の腕のたくましい曲線が窺える。

「ごゆっくりお決め下さい。私達はこれで失礼を……」

 立ち上がろうとした韻の袖を、誰かが掴む。盈が握っていた袖とは違う。

「今日はもう遅い。包を用意させます。泊まっていきなさい」

 黎安の手だった。
 一瞬戸惑いを見せた韻だったが、小さな溜息を漏らせた。

「あの……」

 韻のもう片方の袖を握っていた盈が初めて声を上げる。

「あの……足……痺れました……」


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