4
韻の言には徐々に熱が篭り、身振り手振りが加わる。
「乕は存じておられるやも知れぬが、冷酷無慈悲で有名。貴殿ら異民族の人間は殲滅される事になろう。魁が盾となっている。我々魁が全力で戦えねば、両者の未来は昏い」
ふっと黎安は片頬だけで笑った。
「脅しか。私達が乕の奴らに負けるとでも」
「敵を知らんからそのように余裕でいられるのだ。私は幾度となく乕と戦った……その強靭さをよく知っている」
黎安の表情が曇り、右手を上げる。すると背後から二人の気配が消えていた。 少しだけ、韻の袖を引っ張る盈の力が弱まった気がする。
「我々も、ただ単純に乱を起こすなと言うだけではない。何故貴方達が乱を起こすのかは解っている……その理由を排除するのが条件だ」
燮の一般市民に比べると、異民族に課せられた税は重い。 収める頻度、割合が悪い為であるのだが、そもそも燮の国民でもない人間から税を取り立てる意味は無い。 自由を認めてやれば、それで良いのだ。 それが自由民族に対する最大の対価ではないだろうか。
「さて、どうしようかね……」
黎安は腕を組み、大きな溜息を吐いた。 ゆったりとした服を羽織っているが、それでも二の腕のたくましい曲線が窺える。
「ごゆっくりお決め下さい。私達はこれで失礼を……」
立ち上がろうとした韻の袖を、誰かが掴む。盈が握っていた袖とは違う。
「今日はもう遅い。包を用意させます。泊まっていきなさい」
黎安の手だった。 一瞬戸惑いを見せた韻だったが、小さな溜息を漏らせた。
「あの……」
韻のもう片方の袖を握っていた盈が初めて声を上げる。
「あの……足……痺れました……」
前 | 次目次 |