娵拏族は燮国の人間よりも肌の色が濃く、瞳は闇のように黒い。一目見ただけで外人である事が解る。
 屈託の無い笑みを浮かべる顔はみな、美男と言えよう。

「我が魁へ進攻しないとの約定を取り付けに来た」

 背後の二人が微妙に動いた。

「私達が帰順したとしても、他の部族の人間はどうだろう。貴女は我等と同じように直談判するおつもりか」

「そんな気は無い。娵拏族で一番の実力者は貴方だし、異民族の中で一番勢力があるのは娵拏族だ。つまり、貴方を説き伏せれば全て丸く収まると言う事だ」

 一瞬の沈黙。
 韻の袖を盈が引っ張るが、気にしない事にした。
 沈黙を破ったのは黎安の乾いた笑いだった。

「私を説き伏せる自信がおありか。本当に良い度胸をしておられる。話だけは聞こう。遥々こんな僻地にまで来られたのだ」

「それでは……」

 言いながら韻が袖口に手を突っ込むと、流石に背後の二人が黙っていない。
 だが、すぐに黎安が片手で制し、剣は再び鞘へと戻った。
 韻が取り出したのは絹帛で、魁の北方と、魁そして乕が描かれた地図であった。

「我が国は今、乕と戦っている。だが、全力を出せない……何故だかはお解りだな」

 黎安は首を縦に振る。

「我々が国境付近をうろつき、警備の為に兵を割かねばならぬからであるな。それで我々に帰順を求めるわけか」

 韻は首を横に振る。

「それだけではない。魁が乕に敗北したなら、他の国など軍備は到底敵うべくもなく、一戦で蹴散らされる。次なる敵は、目障りな異民族であろう」


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