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また一時。 先に姿を現したのは、蔡盈のほうだった。
「首尾ばどうだ。……その顔だと、上手く行かなかったか」
俯く蔡盈を見、張韻は眉根を寄せた。
「貴方がたにその理想を体現出来る力があるのか、甚だ疑問だと言われました。彼らは、全くと言って良い程、政府に信がありません……むしろ逆です。彼らを説き伏せるのは、至難の技かと思われます。ですが……」
蔡盈は顔を上げた。 顔色の悪さが少し、改善されている。
「ですが、この国にはその力があると……万民では無いかも知れませんが、多くの民を救える力があると、私の首を賭けて、信じてもらいました」
真面目な顔で話す蔡盈を横目に、張韻はふっと溜息を吐いた。 己の命を賭けただと? そのやり方は、大間違いだ。
「馬鹿者め。この軍を率いているのはこの私だ。首を賭けるつもりならば私の首にしろ。……無論、くれてやるつもりは無いがな」
聞いた蔡盈は目を丸くし、言った張韻は片頬だけで微笑んだ。
理想は理想でしかない、と言う事くらいは理解している。 だがそれをあの男は体現してくれると、信じている。 一度救われたこの命、あの男が信じるこの国の為ならば、惜しいとは思わない。
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