遥か西の果て、太山の彼方にゆっくりと、朱く燃ゆる夕日が落ちていく。
 冴え渡る空気の中で、その様子ははっきりと、目に染みるほどよく見える。

「……お体に障ります。義兄上、どうか、中へ」

 紅藍の声は、昏かった。
 声をかけられた張皖は気にも留めず、露台から黄昏包む街を見下ろしている。

「紅藍。永らく付き合わせて、悪かった」

 振り返る事なく、張皖はぽつりと呟いた。
 あるいは、風に掻き消され、相手に届かない事を願って小さく呟いたのやも知れぬ。

「何か……?」

 希望通り、紅藍の耳には届いていない。

「何も。……ただ、今日は体調が良い。話しておかねばならん事がある」

 言って張皖は踵を返した。
 前進する足取りは軽やかで、戦場にある時のそれと同じである。
 一瞬、紅藍は病など嘘であると思えた。
 張皖が座る為の椅子を紅藍が引く。

「話し……ですか?」

「そうだ。お前の事を話しておかねばと思っている」

 紅藍は机を挟み、張皖の正面にあたる椅子に腰を下ろした。

「俺の命は、持って高々一週間も無い。俺が死んだ後、お前は自由だ。この乱世、お前の腕を高く買ってくれる国はいくらでもある――」

「義兄上、一体何の話ですか。体調が改善に向かっているのに、何故そんな話を」

 紅藍の柳眉が逆立つのを見、張皖はふっと笑みを漏らす。

「己の躯だ、己が一番理解しておるよ。この身……永くは、ない」

 一陣、開けっ放しの窓から冷たい風が部屋の中を吹き抜けた。
 紅藍は言葉に詰まり、瞳を閉じている。

「お前はまだ若い。好きな事をしろ。俺に構うなよ」

「私は……もう、充分自由にしている。好きな事をしている。公徳兄の為に働く事が、私の全てだ――」

 紅藍の声は震えていた。

「何年傍らにあると思っているんだ。どんな時も共にあった。なのに、いまさら……」

 紅藍は言葉に詰まり、俯いた。
 張皖は視線を窓の外へと向ける。
 だいぶ日が落ちた。

 最近は四肢に力が入らなくなる症状が顕著に見られる。
 もうじき、起き上がる事もままならず、指一本をも動かせなくなるだろう。
 本心を言えば、そうなる前に剣で胸を突かせて欲しいとも思っている。だが、許してもらえそうにはない。

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