怪人
「お前、自分の人生がもう少しで終わるとするなら何をする」

 戦支度をしていた許衍を訪ねて来た郭翼は、唐突にそう切り出した。

「……子比、お前縁起でも無い事訊くなよ。時と場合をもちっと考えろ」

 長巻きを手に胡床に座る衍は、眉根を寄せながら苦笑した。
 翼は時々突飛な事をする為、慣れている。
 常人には理解しがたい行動の為、変わり者……怪人とよく言われているようだが、当人は何も気にしていない。

「お前みたいな脳天気に訊いたのが間違いだったか」

 いつものように、カンに触る物言いだが、衍は聞き流す事にした。
 真面目に付き合っていては疲れるだけだ。適当に綺麗な顔を見ながら相槌を打って、受け流せば良い。

「戦なんて、常に死が傍らに寄り添っている。……だからこそ、考えておいて損ではないと思うがな」

 いつもは見せない暗い表情をした翼に、衍は小さく息を呑む。
 心なしか、顔色が青いようだ。その為、唇の赤さが際立って見えた。
 赤い唇が動く様は妖艶である。
 そう言った仕事をしていたのだと、昔聞いたのを思い出した。

「お前には家族がある。俺より色々考えておいたほうが良いんじゃないか」

「よ……余計なお世話だ。それに、瑛姫の奴ぁそう言った事されるのが嫌いなんだ。わざわざ言わなくったって解ってる、ってな」

「お前は幸せ者だ。無駄に命を散らすなよ」

 言って翼は衍に背中を向けた。
 やはり変わり者だと心中で呟いた後、衍は再び長巻きの手入れに向かう。

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