鬱蒼とした森の先には街を見下ろす小高い丘があり、その丘の頂上には大きな一本の木が枝を大きな腕のように延ばしてそびえ立っていた。
 男が一人、その木の根本に座り込み、空を見上げている。

(この澄み切った碧落の彼方にはまた、戦が私を待っているのか……)

 春の朗らかな陽気の中、木々のざわめきを耳に男は顔をしかめた。

 今、この国はあちこちで戦争を始めている。いつ終わるとも知れぬ戦は、かれこれ十数年に渡って続いており、国力は疲弊していた。
 だがまだ、彼等は“自然”の力を知らないのだ。

 この世界には、魔法が存在する。
 だが、その魔法は自然を労力とする。過度に使用する事は、自然を崩壊させる事に繋がるのだ。
 もし彼等がこの力に気付いてしまえば、戦争に多大なる貢献をもたらす力ゆえに濫用され、自然が消滅してしまう恐れがあるのだ。
 守り人としてそうなる前に戦争を終わらせなくてはならないと、男は思っていた。


 不図木漏れ日の眩しさを右手で遮ると、中指にはめた紅玉の指輪が目に止まった。
 守り人の証である。

(そう言えば、今日はまだ“彼女”を見ていない)

 男が立ち上がり、黒いズボンに付いた埃を払っていると、背後から近寄ってきた足音に振り返った。

「こんにちは……よく、お会いしますね」

 透き通った声の持ち主は、男を見て微笑んだ。

「この木は、私の家が代々保護していた木なのですが……昔はこの季節に綺麗な花を咲かせたそうです」

 “彼女”は言いながら巨木の幹に手を掛けた。
 時折短めの黒髪の間から、鴇色の耳飾りが揺れる。

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