「もう、誰もこの木の名を知る人間はいなくなってしまいました……でも、貴方はご存知なのでしょう?」

「さて……私は唯の軍人ですよお嬢さん。この木の事も貴方の事も、何ひとつ知らない唯の軍人です」

「そうですか。でも、私は貴方の事を知っています。貴方のなさっている事も……だから私は貴方の部下になるのです」

 再び“彼女”と出会ったのは新たに派遣され、赴いた戦場でだった。
 “彼女”も自分の使命の為に戦争を早く終わらせようとしていたのだ。

 しかし戦争とは非情である。いくら必死に戦場を駆けずり回っていても、終わる事を知らない。

 戦っても、戦っても、戦っても……。

 何も知らない本国の政治家達が勝手に戦線を広げて行く。

(戦争を止めるには、軍人ではなく政治家になるべきだったのだ)

 男が気付いた時にはもう、同じ思いで戦う人間など自分ひとりになっていた。
 あの、鴇色の耳飾りの“彼女”も。

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