(あの木の下で、また会おう)

 最後には皆、同じ言葉を残して逝った。
 いつ戦争が起きたのかなど、皆が忘れかけた頃。やっと、敵国の降伏によって終戦をむかえた。
 だが、男の心にはわだかまりが残っていた。

(この国はまた、すぐに次の戦を起こすだろう……その時、自分には何が出来るだろうか)

 考えながら足を向けたのは、あの丘だった。
 一歩一歩、森の柔らかい土を踏み締めるごとに消えて逝った戦友の事を思い出す。
 そして開けた丘の頂上にたどり着くと、男は目を満月のように丸くした。
 そこには、枝一面に鴇色をした小さく、可憐な花を付けている大きな木の姿があった。
 その花が、一陣の風に煽られ宙を舞う。

「……さくら……」

 男はその木の名を呼んだ。
 今ではほとんど咲く事の無い花で、誰もが忘れてしまっている名だ。

(あの木の下で、また会おう)

 散って逝った戦友達が見せてくれたのだと思う。
 その桜は一日だけ、生き残った男の為だけに花を咲かせたのだ。

 ――……エル……。

 男は自分の名前を呼ばれて振り返った。

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