怒号と悲鳴が、闇の帳の下りかけた空に虚しく谺する。
 戦場であれば常なのかも知れないが、ここは小さな田舎の村で戦場では無い。
 否、正確には“一刻程前までは戦場では無かった”と言えるのであろう。

 戦勝時の昂揚感そのままに、五千の兵が押し寄せ、村は阿鼻叫喚の巷と化した。
 野盗などと言った小規模に組織化された部隊に襲われる事は、この乱世に珍しい事では無いのかも知れない。
 その程度の襲撃ならば、地方豪族が囲っている私兵で難無く退けられる。
 だが、今回は相手が悪かった。

「行け、蹂躙せよ。皆殺しだ――」

 司令官らしい男の声が冷たく轟く。
 その命令に従い、兵士は生き生きと武器を振るい、血を求める。
 よく鍛錬された体躯、そしてその武芸は、小手先の武術を習った程度の私兵では到底敵うべくも無い。
 ただ一人だけ、私兵の中にも剣花を散らして黒い獣を薙ぎ倒す者があった。

「情けない。それでも誇り高き黒乕の人間か!」

 司令官らしい男が黒い馬に跨がり、若い男に切り伏せられた兵達を罵倒する。

「コッコ……南方の狂兵か。何が誇り高き、だ。お前達の誇りなど、塵の間違いだ」

 若い男は、乱れた長い髪を風に靡かせながら呟いた。その声は喧騒の中でもはっきりと耳に届く存在感がある。

「貴様、身の程を知れ! 我々に逆らいし事、後悔させてやる」

 言いながら司令官らしい男が抜刀し、馬を走らせた。
 それでも若い男は意に返さず、静かに剣を構え直し、ほんの少しだけ動いた後、その剣を振り上げる――

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