視線の先には、アクィラと同年代の、背が高く、きっちり調えられた顎鬚が立派な男が立っていた。
 異国の軍服をぴしっと着こなしたその姿には、まだどこと無く威厳が感じられる。

「こんな言葉を知っているか。『名を好む人は、能(よ)く千乗の国を譲る』と」

 イグニスの青い瞳が歪み、心なしか微笑んだ。
 それを見たアクィラは、眉根を寄せる。

「俺が望むのは名ではない。だが、最善を尽くしていると信じている」

「この戦乱の世を終わらせる事が出来るであろう勢力に付く事が、民の為であると信じておられるのか。それが暴であっても」

 アクィラが言ってもイグニスの瞳は変わらず、鋭い輝きを放っている。
 一瞬の沈黙が流れ、先に折れたのはアクィラの方であった。

「何か、考えがおありなのですな」

 ふーっと大きな息を吐き、イグニスは腰に手を当てる。

「もう一度問う。アクィラ、俺の為に働いてはくれぬか?」

 アクィラはゆっくり瞳を閉じ、そしてまた開く。そうして開かれた瞳には、違う光が宿っていた。


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