2
視線の先には、アクィラと同年代の、背が高く、きっちり調えられた顎鬚が立派な男が立っていた。 異国の軍服をぴしっと着こなしたその姿には、まだどこと無く威厳が感じられる。
「こんな言葉を知っているか。『名を好む人は、能(よ)く千乗の国を譲る』と」
イグニスの青い瞳が歪み、心なしか微笑んだ。 それを見たアクィラは、眉根を寄せる。
「俺が望むのは名ではない。だが、最善を尽くしていると信じている」
「この戦乱の世を終わらせる事が出来るであろう勢力に付く事が、民の為であると信じておられるのか。それが暴であっても」
アクィラが言ってもイグニスの瞳は変わらず、鋭い輝きを放っている。 一瞬の沈黙が流れ、先に折れたのはアクィラの方であった。
「何か、考えがおありなのですな」
ふーっと大きな息を吐き、イグニスは腰に手を当てる。
「もう一度問う。アクィラ、俺の為に働いてはくれぬか?」
アクィラはゆっくり瞳を閉じ、そしてまた開く。そうして開かれた瞳には、違う光が宿っていた。
[*←] | [→#]
2/3
Top
|