zwoelf.

 暗闇にその白いスーツは目立ち過ぎる。
 宴の後の、閑散とした駐車場に、エルケンバルトが唯一人、姿を見せた。
 ベルトグンテ夫妻から電話があったのはつい今し方の事で、姪のヒルデガルトの姿が家に無いとの事がった。
 ワイルダーの一件後、徒歩で帰ったのではないかと見ていたのだが、その見解は大きく外れていたようだ。
 夜遅くとは言え、会場からベルトグンテの家まではさほど離れていない為、充分帰れる距離ではある。
 しかし、途中で何かが起きた可能性も否定出来ない上に、他にも思い当たる節がある。
 ヒルデガルトがあの時、嘘を言っていたと言う事だが、エルケンバルトはその可能性を封印し、頭の隅へと追いやった。
 夫妻には、明日の朝までに帰宅する気配が無い場合、警察へ連絡するように勧め、自らの部下に周囲を探索させる事も約束した。
 心配はしている。
 だが、今はそれよりも成すべき事があると、エルケンバルトは足を早めた。
 向かうは坑道の奥、剣が発見された場所である。
 そこは大きな空洞で、その空間が掘られた年代はかなり古そうであった。
 ただ、置かれている調度品の数々は、十九世紀から二十世紀の始め頃の物と見受けられる。
 剣がこの場所に納められたのも、調度その頃であると資料が物語っている。
 エルケンバルトはそれらの調度品には目もくれず、壁に描かれた壁画へと視線を向けた。
 壁画には、既にライトが設置してあり、夜中でもはっきりと細部まで見て取れる。
 何か文字が書かれているが、アルファベットの類では無く、専門家ではないエルケンバルトに判別出来そうに無い。
 だが、不図ある言葉が口を突き、声となって坑道に響いた。

「『誰も知らない神話、誰も知らない剣の話』……」

 大昔、ある男から聞いた言葉だ。
 独りごちてすぐ、エルケンバルトは振り返る。
 するとその先には、剣を打つ一人の男の姿が描かれていた。

「『作りし者は、それを守り――』……そうか。鍛冶屋か……」

 言ってエルケンバルトは踵を返す。
 目指す場所は決まった。
 いざ、帰らん。ベルリンへ――

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