抜けるような碧落の中を、二翼の飛竜が翔けて行く。
 蒼い竜に跨り豪奢な青い鎧を身に纏う、白い外套を翻す黒髪の騎士は、利休色の竜に乗る黒い鎧の金髪のなびく若い騎士に彼方を指差し声を掛けた。

「もうすぐ王都が見える。これでやっとお前も一人前だな」

「見届け人を隊長にしていただいて、自慢が出来ますよ」

 笑う二人に水を注すかの如く、甲高い鈴に似た音が辺りに響く。
 それはすぐに前方を飛ぶ蒼い竜の声だと解り、黒髪は竜の背をそっと撫でる。

「どうしたフィンメル。何かあったか?」

「魔物がいるみたい。“助けに”行かなくて良いの?」

 竜はその太い舌を器用に操り、言葉を喋った。
 “助けに”とは、地上に誰か人間がいると言う事だろう。
 かなり高い場所を飛んでいる所為か、男達の目には地上で起きている事など見えない。だが、竜達には見えているらしい。

「解った、行こう。おいライネ、これから実戦だ。気を引き締めておけよ!」

 言って黒髪は手綱を振り、蒼い竜は急降下を開始する。
 眼下にある森は樹海の名に相応しく、地平の彼方まで遠く広がっている。
 その中を真っ直ぐ貫くように、一本の街道が通っているのだが、フィンメルはそこから外れ、開けた場所に降り立った。

「この場所だよ。間違いない」

 地上に下りた黒髪のすぐ横で、フィンメルは大きな鼻をひくつかせる。
 後ろに少し遅れてライネが竜から降りてくるのが見えた。

「隊長……ここは?」

「さぁ……数日前、上空を通った時には無かったものだ。ライネ、何があるかわからん。武器を持て」

 ライネは言われた側から弓を取り、言った黒髪もフィンメルの鞍から黒光りするハルバードを引き抜いた。

「右だ、アドルフ!」

 黒髪を呼んだフィンメルは、すぐさまその巨躯を翻し、背後から飛んで来た黒い影に食らい付く。
 それを皮切りに、何処からともなく中型犬程の黒い影が次々と現れ、空を埋め尽くす程になった。
 体形は魔族に似て、背負っているい蝙蝠の羽根でパタパタと飛ぶ。
 だが頭があるはずの場所には何も無く、不気味に手足をばたつかせている。

「こいつらは……何だ?」


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