2
「こいつらは操られているだけの、泥人形のようだ。何処かに人形使いがいる……そいつを探さねば」
フィンメルは黒い泥を吐き捨て、飛び掛かる黒い影を太い尾でたたき落としながら言う。 その後ろでライネが利休色のティファと名付けた竜と共に戦う姿が目に入った。 ライネは元々猟師の家の出で、弓の腕前は幼い頃から神弓と歌われていると聞く。 何故騎士に志願したのかは言わないが、弓兵部隊に配属され、その腕は珍重されているらしい。 横目で後ろを確認したアドルフはハルバードを一閃薙ぎ、影を複数土塊に帰した。
「フィンメル、人形使いの居場所は解りそうか?」
大きな氷の刃を作り出し、華麗に空中の人形を切り刻むフィンメルは、ふんっと鼻を鳴らす。
「解るも何も、奴は魔力を隠す事もしないようだ。もう少し南の森中に魔力の根源を感じる」
「ライネ、私達はそちらへ向かおう。フィンメルとティファ、この場は任せたぞ」
二頭の竜は、高らかな鳴き声でそれに答えた。 木々の茂る狭い場所で戦う事になる為、アドルフはハルバードをフィンメルに預けて剣を抜く。 森の中は木漏れ日で明るく、視野はそれほど悪くない。そして何より黒い影が襲って来る事が無くなった。
「団長、あっちに何かあるみたいです」
森に慣れているライネが、やや左前方を指差す。 言われて気付いたが、木とは明らかに違う、祠のような物が見える。 近寄ってみると苔むした白い石で出来た入口のような物で、扉らしき一枚の岩は微かに動かされた痕跡があり、冷気が外へ流れ出ていた。
「ここか……私が先に行く。ライネは少し様子を見てから来るように」
「何があるか解りません。私も一緒に……」
言って扉を開こうとするライネをアドルフは止める。
「相手はおそらく魔術師の類い。二人で共倒れになる事は無い」
「なら尚更団長を行かせる訳にはいきません。私が先に……」
アドルフは少し困った様子の笑顔を見せて、ライネの肩を叩いた。
「私が危なくなったら、君の弓で助けてくれ。その時の為に、見付からないように少しだけ遅れて来てもらえると良いのだが」
ライネは少し考え、不満そうながらもやっと首を縦に振る。 それを見たアドルフはニコっと微笑み、振り返って祠の扉に手を掛けた。
← | →
目次 |