扉を開き中へ入ると、外と同じく全体に白い石造りで、奥へと誘う階段があった。
 耳を済ませれば何処からか水の流れる音と、その音に被さるように男の声が微かに響く。

「……この扉は如何開くんだ? 何としても突破せねばならん」

 こっそりとアドルフは角から様子を窺うと、先は少し開けているらしい。
 そこには焦げ茶色の薄汚れたローブを身に纏い、ぼさぼさで白髪混じりの茶髪を振り乱した男の姿があった。
 男の視線の先には壁があり、描かれている黒い紋章を丹念に調べている様子だ。
 その紋章は、アドルフの白い外套の止め金に描かれている国章とよく似ている。
 となれば、この祠はカナン国にゆかりがあるものなのだろう。
 アドルフは剣を握る手に力を込め、飛び出す機会を量っていた。
 すると背後に気配を感じ、振り返ろうとしたアドルフの首元に、冷たい刃が当てられる。

「王立竜騎士の方が、犬のまね事ですか?」

 潰れた声で呟かれたその言葉は、何処かの訛りがあるようだが、アドルフに聞き覚えは無い。

「ヴァジェットの人間でもないのに、何故人形を操れるのだ? この場所で何をしている?」

 男は顔を見せないように、後ろ手にアドルフの剣を取る。それでも臆する事なく、アドルフは質問した。

「おうおう、確かにヴァジェットの人間ではない。だが何故ヴァジェット人でなければ人形が操れないと思うのだ? それと、ここで何をしているかなんて見れば解るだろう。扉を開こうとしているんだ」

 男は壁の前にいる茶髪の男に声をかけ、アドルフをその場に置いて立ち去った。足音からすると、再び入口へと戻って行ったようだ。
 茶髪の男は鋭い視線でアドルフを睨め付け、小杖を胸に突き付ける。

「カナン国、ギーブル竜騎士団長アドルフ・ロスチャイルド……貴方ならば、この扉を開く事が出来るやも知れぬな」

「何故、私の名を? それにら今の男の言い振りからするに、貴方がたはヴァジェットの人間ではないそうだが、一体何をしているのですか? そしてこの扉は?」

 茶髪の男はニヤっと笑い、小杖をアドルフから離し、再び壁へと向き直った。

「君の世界の神話だから知っているだろうが……」と茶髪の男はゆっくり壁を指で撫ぜながら話し始める。


 冥界の黒き勇たるミクトラン
 闇の淵より天上を狙う者
 その姿
 漆黒の槍となりて地上に現れん

 地上の赤き賢たるイツァムナ
 時に天 時に冥と
 生き残る術は狡猾なり
 その姿 血たぎる剣なり

 そして天界より照らすは青き光り
 全てを見守り 命永し者
 彼の名はベンヌ
 世界を移す鏡にならん


「この神話の“三つの柱”は実在する。そしてそれら全てを手中に収めた者は、この世を支配出来ると言う……」

 茶髪の男の熱弁を耳にしているふりをしながら、アドルフは腕を組み、左の篭手へと手を延ばす。そこには特製で作らせた銀の小刀が密ませてある。

「夢物語を語るのはよろしいが、文化財に匹敵するようなこの遺跡を荒らすような行為は、法令に違反する」

 言いながら小刀を静かに抜き、背中を見せている茶髪の男にゆっくりと近寄った。


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