兵の話では、二人とも奥歯に毒薬を隠し持っていたようで、獄吏の目が離れた一瞬の隙にアンプルをかみ砕いたのだと言う。
 自らの命を断ってまで守りたい秘密とは何なのか、何としても聞き出さねばなるまい。

 運び込まれた医務室は、城の一階のほぼ半分を占める程広く、最新鋭の医療体制が整っており、王立病院にも見劣りしない。
 聞けば、その技術を用いても正体の解らぬ毒を呷ったらしく、医療室の最深部へと足早に案内された。

「情況は」

 レオンハルトは控えている看護人に尋ねる。

「芳しくない情況です。心肺機能の低下が著しく、手の施しようも無いのが実状で……」

 自らペンライトで男の瞳孔を確認しながら、レオンハルトは険しい顔を見せた。

「このままでは、事情など聞けそうに無いな。これ程急速に効果が現れる毒薬となると、数は限られてくるのだが……」

「これはー……毒薬と言うよりも、呪術の一種と考えた方が良さそうですよ、陛下」

 背後からの男の声に、アドルフとレオンハルトは振り返る。
 するとそこには長い銀髪姿の男が、仕切りの合間からひょっこりと顔を覗かせていた。
 銀の髪と言えば、人形使いの上層部の人間にしか見られぬ特徴でもある。
 アドルフは先程レオンハルトがヴァジェットの話をしかけた事を思い出した。

「呪術か……何とかならないか?」

 レオンハルトは長い杖を持つヴァジェットの青年に、男の様子が看られるように場所を譲り、後ろから覗き込む。

「多分アンプルの中身は呪の込められた苻水だったのでしょう。これではいくら解毒薬を探しても見付かりません。解呪でなくては」

 青年は両手を広げ、長い月白のローブの袖をたくし上げる。姿を見せたその腕は細く、両腕に二つづつはめられた腕輪がしゃらしゃらと小気味よい音をたてて揺れた。
 顔の繊細さも相俟ってか、青年はまるで女のようにも見える。

「私の力では、一人を解呪するだけで精一杯です。……ま、一人いれば情報を聞き出すのには充分ですからよろしいですね、陛下」

 レオンハルトは軽く首を縦に振り、了承を得たと判断した青年はニコっと微笑み、男に右手を翳す。

「……さて、餅は餅屋。ここは任せ、俺達は少し歩くとしようか」

 アドルフの肩を叩き、レオンハルトは寝台から離れるように促した。


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