銃声が、そこかしこから聞こえる。
 夜の闇を、赤い炎が焦がしていた。
 その炎は、千年の栄華を誇る白亜の城をはい回り、黒い瓦礫に変えていく。
 私は息も絶え絶えになりながら、五人の友といくつかある隠し通路を通って崩れ逝く城を脱出した。
 月の無い、暗い夜だったのを覚えている。

「ここは……何処だ」

 脱出したとは言え、城を焼き払った者共は近くにいるはずだ。
 私は茂みに身を隠しつつ、声を低めながら呟いた。

「誰かの屋敷の敷地内に出たようです。王子、私がここの主と話して参ります。五分で戻らぬ場合、お逃げ下さい」

 一人が茂みから立ち上がり、暗闇へと消えて行った。
 私は声を掛ける気力も無く座り込み、空を見上げた。
 星も見えない。正しく闇だ。
 時折風に乗り、焦げた嫌な臭いが鼻を突く。木材や油、それ以外にも様々な物が焼けた臭いに、思わず咳込む。

「これはこれは、王子。ご無事でありましたか……」

 聞き覚えのある声に、私は滲んだ涙を拭いながら振り返った。

「お前は……父の相談役の……」

「アドルフ・リーと申します。弟君がクーデターを起こされたとか。王子がご無事で何よりであります」

 闇に紛れる黒い服装の、背の高い男が差し延べた手を取り、私は立ち上がる。
 革の手袋越しにではあるが、リーの手は冷たく感じた。

「弟がクーデターを……? 何故お前がそのような事を知っている」

「私の所に協力依頼がありましてね」

 リーの言葉に、私は身構えた。

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