風向きが変わり、様々な物が焼け焦げた臭いが辺りに充満している。
 リーは胸一杯に深呼吸しながら、足取り軽く庭を進む。
 通路の出口は知っている。その為、おおよそ隠れているだろう茂みも何処だか見当はついていた。
 誰か小さく咳込んだ。

「これはこれは、王子。ご無事でありましたか……」

 茂みに声をかける。気配は五つある。

「お前は……父の相談役の……」

 咳込んでいたのは王子だったようで、掠れた声を出しながら、リーを見上げた。

「アドルフ・リーと申します。弟君がクーデターを起こされたとか。王子がご無事で何よりであります」

 手を差し出し、立ち上がるのを補佐する。
 立ち上がった王子は、細くて貧弱な体格をしていて、高そうな服は泥で汚れ、端々が裂けていた。
 背丈は高くなく、低くもなくと言った程度だが、この場にいる人間の中では一番低い。
 病弱と聴いていたが、成る程、あまり激しい動きをすると、折れてしまいそうだ。

「弟がクーデターを……? 何故お前がそのような事を知っている」

 声に不信の色が見て取れる。
 然も有りなん。今正に血縁者に裏切られてきたのだ。
 見ず知らずの怪しげな男の言葉を、いきなり信じられようものか。

「私の所に協力依頼がありましてね」

 リーが言うと、王子は見るからに怪訝そうな顔をする。
 それに反応してか、リーは両手を軽く上げながら笑顔を見せた。

「私は共犯ではありませんよ。もし協力するつもりがあるのであれば、城へ通じる通路を兵達と一緒に見張っていました。逃げ出て来る者を片っ端から捕まえる為にね」

 少しだけ、王子の眉間に寄った皺が解れたようだ。
 今は不信感よりも疲労の色が濃い。

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