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月が紅に染まるのは、大気が汚れている所為だと聞いた事がある。 だが、今宵の月は、果たしてそれだけの理由で紅く輝いているのだろうか。
赤い満月の光りに照らし出された教会から誰もいない街中へ、小さな人影が踊り出た。 トコトコと小走りで出て来たのは少年のようで、短い銀髪が風にそよぐ。
――兄貴の罪は、俺が背負います。だから兄貴をあの人が待ってる天国へ……さもなきゃ、また同じ事をするだろうから。
闇に紛れるような黒い服を着込み、胸には長い包みを抱いて少年は東へと急いだ。
ペリーラの東、町外れに大きな屋敷が建っている。 そこまでの道は街灯も無く、頬を生暖かい風が撫ぜ、ぞっとする雰囲気に拍車がかかる。 屋敷に着くと、少年は迷う事無く裏口へと向かい、息を調えた後樫の木で作られた扉を開いた。蝶番がギィっと耳障りな音をたてる。 少年は気にする事無く一歩、敷地内へと足を踏み入れた。 敷居の向こう側は、夏の夜とは思えない冷気が充満しており、薄着で訪れた事を少し後悔させる程だった。 少年はゆっくりと手にしていた包みを開き、中にあった片手剣を取り出し、いつでも抜けるようにと柄に手をかけ、一歩、また一歩と足を踏み出す。
「少年、勇敢と蛮勇は違うものだと、理解出来るか?」
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