Klare Mondlicht
西のムーア山脈に、日が落ちていく。 赤い日がゆっくり、ゆっくりと。 滲むように。
ディニソン大陸の南方にある港町ペリーラ。 その日の夕焼けは、いつもより赤く、妖艶に見えた。
この町でここ数週間、夜の間に人攫いが頻発している。老若男女を問わず行われ、何の目的があるのか全く解らない。 神隠しと恐れられているこの事件の為にわざわざ王都から軍が派遣されたのだが、その部隊の中からも被害が出た事で外出禁止令が敷かれた。 人々は闇を恐れ、家でひっそりと夜が明けるのを待つ日々が続いている。
時の頃は七月の末。 普段ならば昼間の熱気が夜まで残るのだが、事件が起きはじめて以来、何処からともなく流れ来る冷気が街を静かに包んでいた。
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